【用語解説】

1)ミュオン(ミューオン、ミュー粒子)

ミュオンは宇宙線を構成する非常に身近な素粒子で、手のひら大の面積に対し毎秒数個程度の割合で地上に降り注いでいる。ミュオンには陽子(水素原子核)と同じプラスの電荷をもつ正ミュオンと電子と同じマイナスの電荷をもつ負ミュオンがあり、それぞれ陽子の約1/9、電子の約200倍の質量をもつ。正ミュオンに電子が一つ束縛された状態はミュオニウムと呼ばれ、水素原子とほぼ同じ電子構造をもっているため、模擬的な水素として物質中における水素不純物の電子状態を調べるために利用できる。

2)格子欠陥

参考図(b)のように、結晶はその物質に固有の周期的な原子配列をもつ。この周期構造に従わない要素のことを格子欠陥と呼ぶ。例として、結晶外から結晶格子間に入り込んだ不純物原子(侵入型不純物原子)や、結晶を構成している原子が欠損してできた原子空孔などが挙げられる。

3)J-PARC(Japan Proton Accelerator Research Complex)

茨城県東海村にある大強度陽子加速器とそれに付随する実験施設群の総称で、素粒子物理、原子核物理、物質科学、生命科学、原子力など幅広い分野の研究が行われている。本研究はJ-PARC物質・生命科学実験施設のミュオンビームを用いて行われた。

4)ミュオンスピン回転・緩和法

正ミュオンの磁石としての性質(スピン)を利用して、物質中のミクロな磁場をとらえることにより物質の様々な性質を明らかにする手法。正ミュオンは不安定な粒子であり、およそ百万分の二秒の平均寿命で崩壊し、高エネルギーの陽電子とニュートリノを放出する。この陽電子はミュオンのスピンに関する情報をもって放出され、なおかつ極めて高感度に検出することができる。よって、微量の正ミュオンを物質中に打ち込み、崩壊時に放出される陽電子を観測することにより、物質中におけるミュオンスピンの動きを高感度に追跡することが可能。この「磁石」の動きを通して、正ミュオンのまわりの局所的な電子状態を調べる。


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