1.背景及び経緯

Csイオンは特定の粘土鉱物に吸着することが知られています。特に、イライトなどの層状(雲母型)の粘土鉱物に吸着した放射性Csは、層の間に取り込まれるために酸や他の陽イオンにより溶離されにくいことが知られています。このような強い吸着のため、福島第一原子力発電所事故により降下した放射性Csは表層付近の土壌中に留まっており、酸や水などにより洗い流すことが難しいと考えられています。そこで、土壌を粒子の大きさ毎に分ける分級により粒径の極めて小さい粘土鉱物を除く方法が、除染法として提案されています。しかし、分級処理により小さな細粒部分(粘土部分)を除去してもまだ大部分の放射性Csが残っている土壌もあり(図1)、その理由は不明でした。

図1 福島県内で採取した放射性Csが吸着した土壌のそれぞれの粒度分に含まれる放射性Csの割合

2.研究手法と成果

当研究グループでは、土壌に含まれるイライトなど17種類の鉱物について、放射性Csの吸着実験、さらに放射性Csを吸着した鉱物について塩化カリウム溶液及び塩酸溶液中に添加する溶離実験3)を行いました。

一般的に、代表的な微量元素(銅、亜鉛など)では土壌中における基準濃度はppmレベル(土1s中1r)ですが、放射性Csでは、その放射能の強さが現在国で汚染土壌の処理基準としている8000Bq/kgの場合でも、その濃度は土壌中における基準濃度の1万分の1程度と極めて低いものとなります。そこで本実験は、放射性Csの濃度を微量元素レベルと現在の汚染土壌基準レベルの2条件に模擬して行いました。その結果、相対的に濃度が低い汚染土壌基準レベルにおいては、イライト以外のカオリナイトやバーネサイトなどの鉱物に吸着した放射性Csの一部が塩酸などにより溶け出ない状態で存在することを確認しました(図2)。

自然環境中の鉱物は、雨水や温度変化などによりゆっくりと構造が乱れ、そこにCsを吸着する安定性の異なるサイトがうまれます(図3)。このようにしてカオリナイトやバーネサイトにも放射性Csを安定に吸着するサイトはできますが、もともと結晶構造の層の間に安定な吸着サイトを有するイライト等に比べて、その数は極めて低いと考えられます。しかし、汚染土壌基準レベルの放射性Csは他の微量元素に比べ濃度が非常に低いため、その吸着挙動が大きく異なり、鉱物に僅かに存在する安定な吸着サイトだけで相当量吸着しきっていることがわかりました。

カオリナイトやバーネサイトは土壌中の粒径の大きな部分にも含まれる鉱物です。土壌に含まれる鉱物の種類と粒径を調べ、細粒部分でなく300μmまでの大きな粒子部分も除去するなどの判断基準を与えることにより、より効果的な除染が可能となります。

図2 鉱物に吸着した2条件の濃度の放射性Csが試薬溶液により溶離した割合

図3 濃度による吸着挙動の違いを示す模式図

3.今後の期待

福島第一原子力発電所事故由来の放射性Csの環境中における挙動を予測するためには、Csの化学状態を明らかにすることが重要になります。今回の実験により、土壌を構成する各鉱物への放射性Csの吸着・溶離挙動が明らかになりました。今回得られた結果と福島などの汚染土壌中の放射性Csの挙動を比較することにより、放射性Csの長期的な環境中の挙動を予測するモデルの構築に貢献できます。


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