【開発の背景】

原子力機構では、東京電力株式会社福島第一原子力発電所の事故を受け、原子力施設における作業者の安全管理がよりいっそう求められると考えました。そこで、図1に示すように今までにない新しい革新的なシステムとして原子炉建家内での作業者の安全管理並びに事故の未然防止及び事故の拡大防止を図れ、入域場所の把握、線量変動及び体調変動などの観点から作業者の状況を総合的に捉えることできる「リアルタイム多機能入域管理システム(以下、「本システム」という。)」を導入しました。

図1 システムの概念図

【本システムの概要】

本システムは、位置情報管理システム、線量管理システム、健康状態管理システム及び携行品管理システムにより構成されます。

位置情報管理システムは、原子炉建家内の入域者の図2に示す一覧表示のほか、入域者の所在をフロア別及びエリア別にリアルタイムで一覧表及びマップ上に表示するものです。図3に入域者マップ表示を示します。

図2 入域者の一覧表

図3 入域者マップ表示

この位置情報管理システムは、位置検知タグ、位置検知タグ励起装置(エキサイター)、無線LAN親機(アクセスポイント)、入退室管理用サーバー、LANスイッチの各機器及びソフトウェアから構成されます。アクセスポイントは、フロア、エリア内の位置・存在を検知し、エキサイタ―は、フロア、エリア間の通過情報を検知します。

線量管理システムは、図4に示すように原子炉建家内の入域者の積算線量及び現在の線量率をリアルタイムに表示することができます。また、健康状態管理システムは、線量計内蔵の姿勢検知機能を使用し、入域者が立っているか、倒れているかを判定し、リアルタイムに把握できるものです。

図4 入域者の積算線量及び線量率

線量管理システムは、姿勢検知機能付き無線式線量計、無線中継機器、健康管理用サーバー、LANスイッチの各機器から構成されます。

携行品管理システムは、携行品の個人情報との関連づけ及び警報レベルの個人別の設定を行うとともに、携行品の在庫管理・電池残量管理・品質管理も行うシステムです。

管理用機器として図5及び図6に示すように各種データを表示するグラフィックパネルを原子炉建家入口と原子炉制御室に設置し、各フロアで持ち運び使用できる現場表示器(タブレット型)を整備しました。

図5 原子炉制御室のグラフィックパネルと現場表示器(タブレット型)/図6 現場表示器(タブレット型)とアクセスポイント、無線中継器

【期待される成果】

JMTRにおける従来の入域管理は、作業者が入室時に炉室出入口の炉室入出表示盤の氏名表示灯を点灯させ、退室時には消灯させる方法を用いており、入域状況の確認は炉室出入口1か所でしか行えませんでしたが、 本システムでは、原子炉建家内に入室する作業者が位置検出や線量管理が行える携行品(位置検知タグと無線式線量計)を携帯し炉室へ入室すると、各エリアに設置されている管理用機器、現場表示器にて、作業者の所在をフロア別及びエリア別にリアルタイムで表示させることが可能になりました。また、炉室出入口、サーバー室だけではなく、タブレット型端末を用いることにより炉室内の様々な場所で炉室入出状況を確認できるようになり、原子炉建家内における作業状況の把握が可能となりました。さらに、本システムの機能として、無線式線量計により、作業者の積算線量及び現在の作業環境における線量率をリアルタイムに表示器で確認でき、設定により警報が発報する機能も有していることから被ばく状況を迅速に把握することが可能となりました。また、無線式線量計内蔵の加速度センサーにより作業者の姿勢を検知し、体調不良や不慮の事故等により作業中に倒れた際には、作業者の姿勢異常を判定し、警報が発報することから、万一の際の迅速な救護活動も可能となりました。JMTRにおける新旧炉室入域管理の比較を表1に示します。

本システムの導入により、上記のとおり一層の作業安全確保に貢献するとともに、図7に示すように国内外の原子炉を含む原子力関連施設で活用すれば、東京電力株式会社福島第一原子力発電所等の特殊環境での除染作業において作業者の被ばく低減が期待できます。

今後、作業者の姿勢状態だけでなく心拍数、体表面温度も把握できる生体センサー開発、位置検知精度と情報処理速度の向上、双方向通信システム開発等システムの高度化が進めば、より高い次元で作業者の安全確保が行えます。

表1 JMTRにおける新旧炉室入域管理・放射線管理の比較

図7 除染現場等への応用


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