用語説明

1)メガ電子ボルト
エネルギーの単位である。ここでは、陽子線のもつエネルギーを表す。(メガは100万のこと。100メガ電子ボルトが、約1兆分の4カロリー)。40メガ電子ボルトの陽子の速度は約9万km毎秒。
2)集光強度
レーザーなどの電磁波をレンズや凹面鏡で集光したときの単位面積当たりの仕事率(パワー)である。レーザープラズマの分野では、W/cm2(ワット毎平方センチメートル)がよく使われている。1021は、1000兆の100万倍。
3)ペタワット
ペタ(peta)は、1000兆のこと。ワットは、パワーの単位。
4)プラズマ状態
物質が電離し、イオンと電子に分離された状態。正負の荷電粒子からなり、それらが相互作用しながら集団的に運動している。自然界では、蛍光灯の内部やキセノンランプ、オーロラなどでも見られる。幅広い分野で応用、研究され、工業用では、プラズマを用いた微細加工、プラズマディスプレイなどに応用され、研究用途としては、核融合で研究されたりしている。
5)加速
速度を大きくすること。ここでは、陽子の速度を大きくすること。
6)電場
電荷に力を及ぼす空間の性質をいう。ここでは、陽子の速度を大きくする力を及ぼす空間の性質。
7)レーザー駆動粒子線
陽子とは水素の原子核であり、陽子群を一定のエネルギーまで加速したものを陽子線と呼ぶ。超強度極短パルスレーザーをターゲットに照射することにより発生する陽子線をレーザー駆動陽子線と呼ぶ。この陽子線を発生する装置は従来の加速器に比べ装置の小型化が可能である。また、レーザー駆動陽子線は短いパルス幅を持ち、その高い直進性を示すという特性を生かして、産業利用、医療応用が広く期待されている。
8)従来の加速器
粒子の加速には、電場を用いる。電荷を持った粒子を電場の中に置くと、加速されエネルギーが高くなる。よく使われている二つの典型的な加速器は、1)たくさんの電極を直線状に並べ、荷電粒子を高いエネルギーまで加速する線形加速器と呼ばれる装置(リニアックともよばれる)、2)電極は一つしかないが、磁石により作られた軌道上を荷電粒子が何度も回ることにより高いエネルギーまで加速する円形加速器(サイクロトロンやシンクロトロンがこれに相当)、がある。より大きなエネルギーを得るためには、その装置の大きさ(線形加速器では長さ、円形加速器では半径)を大きくする必要があること、二次的に放射される電子線やX線の遮蔽のための防護壁をより厚くする必要があることが加速器全体の大きさの巨大化という問題点を招いている。
9)チタンサファイアレーザー
レーザー媒質としてサファイアにチタンをドープした結晶(以下、チタンサファイア)をレーザー発振媒質として使用するレーザー装置。チタンサファイア結晶は、発振周波数成分が多く、すなわち波長帯域が極めて広いため、フェムト秒の極短パルスを生成させることができる。レーザー媒質が結晶であるため、大型化は困難であるが冷却は早く、繰り返し動作が可能となる。このため、チタンサファイアレーザーは、小型化が可能であり、産業応用や学術研究などに使用されている。
10)プレパルス
パルス状の強度レーザー光には、時間的に強度がピークになる主パルスの周辺に、増幅やパルス圧縮に起因する光ノイズ成分の発生が伴う。主パルスの強度ピークより時間的に先行する光ノイズ成分のことをプレパルス、追従する成分をポストパルスと呼んでいる。ここで扱う高強度レーザー光の場合、プレパルスはナノ秒からピコ秒程度時間的に先行するものが存在する。このプレパルスは、主パルスがターゲットに到着するよりも前に、ターゲットと相互作用しプラズマを生成する。このようなプレパルスのターゲット上での強度が十分に高いと、主パルスがターゲットに到達する前に薄膜ターゲットを破壊したり、薄膜裏面に電荷分離構造を形成できなくなるほどプラズマ膨張が促進されたりするため、十分高いエネルギーまで陽子加速を行うことができなくなると考えられている。
11)過飽和吸収体
強度が低い入射光に対しては吸収体として働き、強度が高い入射光に対しては吸収体としての能力が飽和し透明体として働く物質である。
12)位相
光は電磁波の一種である。海の波の様な波動と呼ばれる現象では、波の山と山が重なると高さが重ね合わされてその分だけ高くなる。また、波の山と谷が重なると、その高さ深さが同じ場合には相殺されてなくなるといった重ね合わせが生じる。山と山、あるいは、谷と谷の重なり具合を指し示す言葉が位相である。位相が揃うと光では波の山と山が重なりその分光の強度が高くなる。
13)in vivo
「生体内で」の意。対語は、in vitroで「試験管内で」の意。
14)粒子線がん治療装置
陽子線などのイオン線は物質と相互作用する際に、ある一定の深さで急激にエネルギーを失って停止し、その近傍の物質とのみ強く相互作用する性質がある。これはブラッグピークと呼ばれており、X線や電子線と大きく異なる点である。このイオン線の停止位置を人体内のがん細胞の位置に合わせてイオン線を照射すると、切開手術を行うことなくかつ正常細胞へのダメージを最小にして、がん細胞に決定的ダメージを与えることができる。このようなイオン線(陽子線、炭素線)によるがん治療は、外科療法、化学療法、他の放射線治療と並んで、癌治療の重要な一角を占めつつある。イオン線(特に炭素線)による先進的ながん治療は、千葉県にある放射線医学総合研究所のHIMAC加速器で先駆的に行われきており、優れた治療効果を示すことが判っている。しかしながら、この方法の普及を妨げている理由の一つに治療用イオン加速器が巨大で高価であることが挙げられる。本格的高齢化社会を迎え、身体的負担の少ない粒子線治療をその需要に見合った水準まで普及させるためには、装置の大幅な小型化、低コスト化が必要である。

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