【研究開発の背景】

原子力機構では、送電網が発達していない原子力新興国の地方都市における分散型の電力供給と熱供給を念頭に置き、安全性に優れた小型高温ガス炉の概念検討を実施している。

例えば、カザフスタン共和国では、クルチャトフ市に、発電および地域暖房を目的とし、将来的には水素製造を視野に入れた、原子炉出力50MW(5万kW)規模の小型高温ガス炉を建設する、カザフスタン高温ガス炉(KHTR)計画が検討されており、カザフスタン原子力発展プログラム(2011年6月に政府布告)において、高温ガス炉の建設とそれを用いた発電と地域暖房等が記載されている。

【研究の内容】

国内企業と協力し、原子炉から取り出される750℃のヘリウムガスを用いた蒸気タービンによる発電や、プロセス蒸気供給および地域暖房などの熱供給を行うシステムの基本仕様を決定するとともに、ヒートマスバランス計算注2を行い、系統構成を決定した(図1)。また、原子力機構が所有する高温ガス炉、高温工学試験研究炉(HTTR)注3の通常運転時における炉心入口から炉心出口にかけての温度上昇は、約550℃と非常に大きく、燃料最高温度を制限温度以下に維持するためには、3%〜10%の12種類の濃縮度の異なるウラン燃料を用いて出力分布を最適化する必要があった。今回、3種類の濃縮度の異なるウラン燃料を用いて、出力分布を最適化し、その状態を維持することに成功した。具体的には、ウラン濃縮度および反応度調整材注4を調整することにより、出力分布の最適化を図ることで、炉心下部の燃料温度を低くし、鉛直方向の燃料温度分布を平坦化することができた。これにより、HTTRの約1.4倍の出力密度を実現した(図2、図3、図4)。これは、単位出力あたりの建設コストおよび燃料コストの低減につながる成果である。

高温ガス炉システムは、燃料として、1600℃の高温まで放射性核分裂生成物を閉じ込めることが可能な耐熱性に優れたセラミック被覆粒子燃料を用いているため、通常時燃料温度と異常時燃料制限温度との間に温度余裕がある。したがって、冷却材流量が喪失し、さらに原子炉スクラム失敗を想定したような場合においても、ある程度の燃料温度の上昇が許容される。さらに、温度上昇に伴い負の温度係数注5により、炉心に負のフィードバック反応度が添加され、原子炉の出力は停止レベルまで自然に低下し微小出力で安定する。さらに、熱容量の大きい黒鉛構造物の使用と、長尺形状および低出力密度を採用した炉心設計により、事故時の崩壊熱による炉心の温度変化は緩慢であり、崩壊熱を、黒鉛構造物の高い熱伝導、原子炉圧力容器外側からの熱放射、大気の自然対流によって原子炉圧力容器外へ除去することが可能である。

高温ガス炉は、このような固有の安全性により、外部電源が喪失し、かつ、主配管の破断によって冷却材が喪失するような事故において、炉心の強制冷却ができない状況においても、原子炉を自然に冷やすことができ、燃料や原子炉圧力容器などの健全性が損なわれない特長を有している。

【これまでの実績と今後の予定】

小型高温ガス炉の概念検討は2010年より行っており、これまでに、基本仕様および系統構成の決定、ならびに炉心核熱流動設計を実施した。今後は、小型高温ガス炉のプラント設計、安全予備解析、経済性予備評価等を実施する計画である。

図1 小型高温ガス炉システムの基本仕様および系統構成

図2 小型高温ガス炉の炉心概略図/図3 ウラン濃縮度と反応度調整材(BP)の配置・仕様

図4 小型高温ガス炉システムとHTTRの炉仕様比較


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