独立行政法人日本原子力研究開発機構/国立大学法人東京大学

平成23年9月5日
独立行政法人日本原子力研究開発機構
国立大学法人東京大学

氷に「メモリー」があることを発見
−惑星進化の謎解明に期待−

【発表のポイント】

独立行政法人日本原子力研究開発機構(理事長 鈴木篤之。以下「原子力機構」)量子ビーム応用研究部門の深澤裕研究副主幹は、国立大学法人東京大学(総長 濱田純一)大学院理学系研究科の大学院生荒川雅氏(現、九州大学大学院理学研究科助教)及び鍵裕之教授、並びに米国オークリッジ国立研究所(以下「ORNL」)と共同で、中性子回折1)の実験から、低温で形成された強誘電性の氷2)が、従来の予測より高い温度でも微小な領域に残留すること(氷の「メモリー」と呼称)を発見しました。

通常我々が目にする氷の中の水素原子の配置は無秩序です。一般に、無秩序な原子は温度が下がると熱力学第三法則に従って規則的に配置(秩序化)しますが、氷の場合は57ケルビン(K)3)(約マイナス216℃)から62 K(約マイナス211℃)の限られた温度で秩序化が観察されていました。

今回、ORNLの研究用原子炉(HFIR)に原子力機構が開発した中性子回折装置(WAND)を設置し、様々な温度で長い時間経過させた氷試料の構造の変化を時分割中性子回折法で測定し、温度の履歴と水素秩序化の関係を調べました。その結果、過去に秩序化した経験のある氷には、150 K(マイナス123℃)程の高い温度でもナノスケールの微小な領域に秩序構造が残留していることを発見しました。

秩序化した氷はプラスとマイナスの電荷の偏りが生じた強誘電体となります。太陽系の大部分の氷の温度は約150 K以下です。そのためこれまでは水素原子の配置が全く無秩序になっている通常の氷と考えられていましたが、今回の実験でその多くが「メモリー」の効果によって強誘電性氷であると見なすことができます。強誘電体は電気的に強い力で結合するので、以上のことから強誘電体氷が合体したり、周りの塵を引きつけたりすることで惑星の形成が促進されたという新説が提案できます。「メモリー」を持つ氷は太陽系に広く分布しており、今後、大強度陽子加速器施設(J-PARC)からのパルス中性子を用いて、この性質の理解を深めることで、惑星形成や物質進化の謎の解明が加速されるものと期待されます。

本研究成果は、米国地球物理学連合の学会誌Geophysical Research Lettersに「The existence of memory effect on hydrogen ordering in ice: The effect makes ice attractive」として掲載されます。

以上

参考部門・拠点:量子ビーム応用研究部門

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