財団法人 高輝度光科学研究センター/独立行政法人 産業技術総合研究所/独立行政法人 日本原子力研究開発機構/国立大学法人 大阪大学

平成23年7月5日

財団法人 高輝度光科学研究センター
独立行政法人 産業技術総合研究所
独立行政法人 日本原子力研究開発機構
国立大学法人 大阪大学

希土類金属水素化物の結晶構造の一般則を確立
−水素吸蔵材料の設計指針に重要な知見を提供−

高輝度光科学研究センター(以下「JASRI」、理事長 白川 哲久)は、産業技術総合研究所(以下「産総研」、理事長 野間口 有)、日本原子力研究開発機構(以下「JAEA」、理事長 鈴木 篤之)、大阪大学(総長 鷲田 清一)、および新エネルギー・産業技術総合開発機構(理事長 村田 成二)と共同で、希土類金属水素化物が水素濃度によって取りうる結晶構造の一般則を、大型放射光施設SPring-8※1の高輝度X線を用いて世界ではじめて確立しました。

希土類金属※2は金属原子1個当たり最大3個もの水素原子を吸収して超高濃度水素化物となるため、高性能水素貯蔵材料の構成元素として注目されています。水素濃度が低い固溶体はα相と呼ばれ、多様な結晶構造をとりますが、高濃度の二(金属原子1個当たり2個の水素原子を吸収)および三(金属原子1個当たり3個の水素原子を吸収)水素化物のβ相は共通して面心立方金属格子をとることが知られています。しかし、ユウロピウムはこの構造則に従わない例外とされていました。このため、希土類金属を用いて高性能な水素貯蔵材料を開発する際に必要な、水素濃度と結晶構造の間の一般則が確立されていませんでした。

研究グループは、SPring-8でのX線回折および放射光メスバウアー吸収スペクトル測定※3によって、1万気圧を超える高い水素圧力に晒されたユウロピウム水素化物の結晶構造と原子の価数状態を観測し、それらの変化を捉えることに成功しました。その結果、従来知られている二水素化物よりも水素濃度が高く、ユウロピウムの価数が+3価で、面心立方金属格子をもつ結晶構造相が出現すること、すなわちユウロピウム水素化物も従来の水素化物の構造則に従うことが確認されました。これによって、すべての希土類金属水素化物に共通する、水素濃度によって取りうる結晶構造の一般則が確立されました。

今回確立した構造則は、価数によって材料の結晶構造、水素濃度がコントロールできる可能性を示唆しており、希土類金属合金を使った水素貯蔵材料の開発では、その価数の制御が高性能化へ向けた重要な指針の一つとなります。本研究の成果は、次世代クリーンエネルギー開発に大きく貢献することが期待されることに加えて、希土類金属原子の価数と水素濃度が密接に関係することが示されたことから、水素と金属格子との相互作用を利用した電子・磁性材料開発への波及効果が期待されます。


今回の研究成果は、JASRI 松岡 岳洋 協力研究員(現:大阪大学 特任助教)、平尾 直久 研究員、大石 泰生 主幹研究員、依田 芳卓 主幹研究員、産総研 藤久 裕司 主任研究員、JAEA 三井 隆也 副主任研究員、増田 亮 特定課題推進員、町田 晃彦 研究員、青木 勝敏 特定課題推進員、瀬戸 誠 客員研究員(京都大学原子炉実験所 教授)、大阪大学 清水 克哉 教授らのグループの共同研究によるもので、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の水素貯蔵材料先端基盤研究事業「水素と材料の相互作用の実験的解明」の委託を受け、SPring-8の利用研究課題として行われました。

2011年7月5日に米国科学雑誌 Physical Review Letters に掲載されます。

以上

参考部門・拠点:量子ビーム応用研究部門

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