T2K実験国際コラボレーション
高エネルギー加速器研究機構
東京大学宇宙線研究所
J-PARCセンター

世界初、電子型ニュートリノ出現現象の兆候を捉える

ミュー型ニュートリノが飛行中に電子型ニュートリノへ変化する電子型ニュートリノ出現現象の発見を最大の目的とするT2K実験※1(東海-神岡間長基線ニュートリノ振動実験)で、震災前までに取得した全データを解析したところ、電子型ニュートリノに起因すると考えられる事象を6事象発見し、世界で初めて電子型ニュートリノ出現現象の兆候を捉えました

T2K実験は、茨城県東海村の大強度陽子加速器施設J-PARC※2のニュートリノ※3実験施設において人工的に発生させたミュー型ニュートリノを295km離れた岐阜県飛騨市神岡町の検出器スーパーカミオカンデ※4で検出することにより、ニュートリノが別の種類のニュートリノに変わる「ニュートリノ振動」と呼ばれる現象を世界最高感度で測定し、ニュートリノの質量や世代間(種類間)の関係など未知の性質の解明を目指す実験です。なかでも、ミュー型ニュートリノから電子型ニュートリノへの振動(電子型ニュートリノ出現現象)の検出が最大の目的※5です。電子型ニュートリノ出現現象の発見は、今後のニュートリノ物理の方向性を決定づけるとともに、宇宙が反物質ではなく物質で構成されているという現在の宇宙の謎に迫る最大の手がかりを与えるものとなることから、内外の研究者の注目を集めており、世界的な競争となっています※6。そのなかでT2K実験は最高の感度を誇ることから、12カ国から500人を超える研究者による国際共同実験となっています。

このたび、平成22(2010)年1月の本格的な実験開始から平成23(2011)年3月11日の東日本大震災による加速器施設の停止までの間に取得した全データを解析したところ、スーパーカミオカンデ内で総計88個のニュートリノ事象を検出しました。このうち6事象で電子の生成が検出されています。

電子型ニュートリノが物質と反応すると電子が生成されます。一方、電子型出現以外でも、ある確率で電子が生成されたとして検出される背景事象があります。今回のT2K実験においてこの背景事象の確率を評価したところ、1.5事象でしたので、今回検出した88のニュートリノ事象の中に電子型ニュートリノが出現したといえる確率は99.3%となり※7、これは電子型ニュートリノ出現現象の兆候を示唆する、世界で初めて得られた研究成果といえます。

現在、J-PARCでは平成23(2011)年内の実験再開を目指しています。震災前までに当初の目標の約2%のデータを取得しましたが、実験再開後には、当初の目的のデータ量を取得することによって、今回捉えた電子型ニュートリノ出現現象をより確実に把握し、さらにT2K実験の特徴の一つである反ニュートリノを使った測定も実施して、この現象の解明を世界に先駆けて行っていく予定です。また、将来的には加速器の大強度化とともに検出器を高度化し、レプトン※8のCP対称性の破れ※9の探索を行うことにより宇宙の物質起源の謎に迫ることを目指しています。電子型ニュートリノ出現現象は、レプトンのCP対称性の破れの検出に欠かせない要件であり、今回の測定結果は、将来の計画へ向けた第一歩を刻んだことも意味します。

この研究成果について、6月14日(火)14時からKEK研究本館1階会議室2にて報道関係者向け説明会を開催します。また6月15日(水)13時からはKEK小林ホール及び宇宙線研究所(柏)6階大セミナー室にて研究者向けのセミナーを計画しています。参加自由ですので、ぜひお越しください。

以上

参考部門・拠点:J-PARCセンター

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