用語説明

1)遷移金属化合物
銅(Cu)やニッケル(Ni)など、周期律表で第3族から第11族に属する遷移金属元素を含んだ化合物を遷移金属化合物と呼びます。これらの物質では、遷移金属元素中の不対電子であるd電子が電気伝導や磁性などの物性を担うことになります。
2)軌道状態
原子中の電子は、エネルギーや角運動量に応じて様々な形をした広がりを持っており、その形状を軌道状態と呼びます。遷移金属化合物での物性の主役となるd電子は、多くの場合、図1に示したいずれかの軌道状態をとることが知られています。
3)共鳴非弾性X線散乱
物質に照射したX線が試料によって散乱される際に、試料との間にエネルギーの授受があるものをX線非弾性散乱と呼びます。X線は物質中の電子と同程度の運動量を持っているため、X線非弾性散乱ではエネルギーに加えて運動量の授受も可能であり、そこから電子の運動状態を調べることができます。また、試料中の構成元素の電子準位間に対応するエネルギーを持つX線を利用した場合は散乱強度に共鳴増大効果が生じるため、特に、共鳴非弾性X線散乱と呼ばれています。今回の研究では、銅の電子準位間に相当するX線を利用することで、銅のd電子の軌道状態を選択的に観測することができました。
4)偏光
X線などの電磁波は、進行方向に対して垂直方向な電場と磁場が振動しながら進んで行きます。その電場がどちらを向いているかを偏光と呼びます。SPring-8などの放射光X線では、ほとんどの場合、偏光は水平方向を向いており、今回の実験でもその水平偏光したX線をそのまま試料に入射しました。
5)銅フッ化物KCuF3
この物質中は、2種類のd電子軌道状態が互い違いになって周期的に配列した軌道秩序の典型物質として知られています。軌道秩序の結果、磁気相互作用の伝播方向が一軸方向で強くなっており、一次元磁性体としても数多くの研究がなされています。
6)ブリッジマン法
一定の温度勾配がある炉内に原料を置き、端から徐冷することによって結晶を育成させる方法。本研究では試料を静止させたままで、温度勾配のみを変化させる静置冷却式を採用しました。通常行われる下降式ブリッジマンに比べ、引き下げ時に生じるモーター振動による結晶成長への影響を排除できるためです。

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