用語の説明

1.褐色細胞腫(かっしょくさいぼうしゅ)
 副腎髄質(副腎の一番内側にある組織)に発生するがんで、神経伝達物質であるエピネフリン(アドレナリン)を過剰に分泌する特徴を持っています。褐色細胞腫は、エピネフリンの原料となるノルエピネフリンを取り込む特殊な通路(ノルエピネフリントランスポーター:NET)を持っています。76Br-MBBGはこの通路を通ってがん細胞に取り込まれます。
 神経芽細胞腫も褐色細胞腫と同様にエピネフリンを生産するため、NETを通してベンジルグアニジンを細胞内に取り込みます。このため、76Br-MBBGは神経芽細胞腫の診断にも有効です。
 褐色細胞腫には10% 5H病という別名があります。これは、統計的な理由(副腎外での発生が約10%、両側性発生が約10%、悪性腫瘍が約10%、家族内発生が約10%、小児発生が約10%)と、症状(高血圧:Hypertension、代謝亢進:Hypermetabolism、高血糖:Hyperglycemia、頭痛:Headache、発汗過多:Hyperhydrosisなど)の頭文字からつけられた俗称です。
2.76Br-MBBG(メタブロモベンジルグアニジン)
 臭素-76(76Brと書きます)というPET診断に適した新しいRIを、ベンジルグアニジンという物質に組み込んだ薬剤です。
 76Br-MBBGは、ノルエピネフリントランスポーター(norepinephrine transporter:NET)を介して細胞に取り込まれます。褐色細胞腫は、NETの数が通常の細胞に比べて多いため、76Br-MBBGを取り込む量も多くなります。この特徴を利用して、PETにより褐色細胞腫の有無を判定できます。

76Brを組み込んだベンジルグアニジン(76Br-MBBG)の化学構造式。

3.がんのPET診断
 がんを見つけるための診断法です。
 放射線を出す元素(放射性同位元素:RI)を含んだくすり(RI薬剤)を注射し、そのくすりが出す放射線をPET(Positron emission tomography:ポジトロン断層撮像(装置)、下図)という装置で体の外から計測し、がんを見つけ出します。
 がんのPET診断で最も良く用いられるくすりは、ブドウ糖に似た18F-フルオロデオキシグルコース(18F-FDG)です。がん細胞は、このくすりを栄養であるブドウ糖と間違えて取り込むので、活発な活動をしているがん細胞から、より多くの放射線が検出されます。

検査室に置かれたPETの写真

4.神経芽細胞腫
 小児がんの中で、白血病の次に多く発生するがんです。一般に年齢が高くなるほど治りにくくなる傾向があります。
 約9割の神経芽細胞腫がエピネフリンを分泌します。このため76Br-MBBGは、神経芽細胞腫のPET診断用薬剤としても期待できます。
5.エピネフリン(アドレナリン)
 副腎髄質で作られるホルモンの一つで、ストレス応答の中心的役割を果たし、エピネフリンが血中に放出されると、血圧や心拍数、血糖値を高くする作用があります。
 エピネフリンとアドレナリンは同じ物質です。医学分野ではエピネフリンという呼び方が世界共通で使われています。一方、生物学分野ではアドレナリンという呼び方が使われます。
 エピネフリンは1900年に高峰・上中により競争を制して発見しました。高峰は副腎を意味する英語からアドレナリンと名前をつけました。同時期に第一発見者を主張したエイベルはギリシア語からエピネフリン、フェルトはラテン語からスプラレニンとそれぞれ名前をつけています。ヨーロッパでは高峰らの功績をたたえてアドレナリンと呼びますが、アメリカではエイベルの主張を受けてエピネフリンと呼んでいます。
6.放射性同位元素、RI:Radioisotope
 同じ元素で質量数の異なるものを互いに同位体と言います。このうち、放射線を出す性質のものを放射性同位元素(日本ではRI)と言います。
 がんのPET診断には、ポジトロン放出核種というRIを使います。Br-76もポジトロン放出核種の一つです。
7.臭素-76(76Br)
 PET診断に使うポジトロン放出核種です。76Brは放射線を出して安定な元素(セレン-76:76Se)に変わります。76Brは半減期が16時間なので、
  • 患者さんに注射した後のRI薬剤ががん組織に十分集まってからPET診断ができる
  • 患者さんの体にいつまでもRIが残って放射線を出し続けることがない
  • RI薬剤を医薬品メーカーが製造して病院に届ける時間的な余裕がある
 と言った利点があります。

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