用語説明

1)薄膜状のプラズマの面密度
本方式では、強いレーザーからなる光のピストンでプラズマを押すことによりプラズマにエネルギーを与え、結果的に目標となるエネルギーまで粒子を加速する。このときに被加速物質であるプラズマは、できる限り軽い方が効率よく加速できるので、薄い膜状のプラズマを利用して加速効率を上げる。このような薄い膜状のプラズマの単位面積当たりの軽さが「薄膜状のプラズマの面密度」であり、この面密度が低いと被加速物質が軽いということになるので、結果的に加速効率が上がるということになる。
2)高強度超短パルスレーザー
ここで用いるのはパルス状に点滅するレーザー光源であり、1回の点灯の際に発する光エネルギーを点灯する時間で割ったものが、1回の点灯時にレーザー光がなしうる単位時間当たりの瞬間的な仕事量(エネルギー)であり、レーザーのピーク出力といわれる。このピーク出力が大きければ、レーザーを集光した時に得られるピーク強度を高くすることができる。従って、点灯時間すなわちパルス幅を極めて短くすることができれば、1回の点灯エネルギーが同じでも、より高いピーク強度を実現できる。高強度超短パルスレーザーとは、点灯時間を極めて短くして高いピーク強度を実現できるレーザー光源のことを指す。
3)1TV/m(テラボルト/メートル)
荷電粒子を加速するには、被加速物質である荷電粒子を、別途設けた電界(例えばコンデンサーの中には一様な電界が形成され、正に帯電した荷電粒子は電界の中の電気力線に沿って加速される。)により加速することができる。荷電粒子の加速効率はこの電界の強さによって決まり、できるだけ短い距離で、より高いエネルギーまで加速するためには、より強い電界を利用する必要があり、通常の高周波型加速器では1メートルあたり高々100MV(一億ボルト)という電界が限界といわれている。これ以上電界を強くするとマイクロ波管の内壁が融けてしまうのが理由である。これに対し、本方式ではレーザーで発生したプラズマを利用する。プラズマで加速のための電界を発生できれば、自身が既に電離状態なのでマイクロ波管の内壁が融けるという類の問題は一切考えなくてよい。高密度プラズマに強いレーザーで荷電分離を行えば、この電界の強さを極めて高くすることができ1メートルあたり1TV(一兆ボルト)の電界発生が可能になる。この結果、荷電粒子の加速長は従来型の方式を桁違いに短くすることができ、がん治療に必要な荷電粒子加速器のサイズを大幅に小さくすることができる。
4)急峻な電場勾配(従来の数万倍)
荷電粒子がある電界の中にさらされれば、クーロン力により加速されるという現象が起こるが、これを物体が坂道を転がりながら加速されていくことに例えると、坂道の勾配が急であれば、より大きく加速されることになる。すなわち電界による荷電粒子の場合、電界の強さが強いことを「電場勾配が急である」と表現し、この勾配が極めて急、すなわち極めて大きな電界のことを「急峻な電場勾配」と呼んでいる。従って、従来型が100MV/mであるのに対し、高密度プラズマでは1TV/mになるので従来型の数万倍ということになる。
5)輻射圧
光が物質にあたって反射すれば、反射の際に物質は反射の前後で力積を与えられることになる。通常の鏡などは質量が大きいためにこの際に与えられる力積による圧力は極めて小さく無視できるが、光の強度が十分に高くなり、しかも被反射体であるプラズマが十分に軽ければ、このような光の反射で与えられる力積による圧力が無視できなくなる。このように光、すなわち輻射が被反射体に与える力積が原因で生じる圧力を輻射圧と呼び、レーザーピストンではレーザー光の強さを十分高くし、かつ被加速体であるプラズマを薄膜状の軽い状態にすることで、被反射体であるプラズマに対する輻射圧を利用できるようにして加速する。

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