補足説明資料

1.背景

(1) 再稼働後のJMTRに期待される役割

再稼動後のJMTRは、図1に示すように、(1)現行軽水炉の高経年化対策や次世代軽水炉のような「軽水炉の長期化対策」、(2)核融合炉や高温ガス炉用材料開発や原子力エネルギー基盤研究のような「科学技術の向上」、(3)シリコン半導体や医療診断用ラジオアイソトープ製造のような「産業利用の拡大」、(4)「原子力人材育成」等の役割を担うことになる。

(2) 再稼働後のJMTR照射利用

JMTRを30日間運転するために必要な過剰反応度を確保することが大前提である。利用者が、利用可能な照射孔は約100個あるが、人気のある照射孔は、燃料領域かベリリウム反射体1層目であり、その数は30個程度と数に限りがある。加えて、利用者の要望に±10%で合致した照射孔を選定しなければならない。一方、再稼働後のJMTRの照射利用に関しては、図2のように改修前の照射利用と比べて、約2〜3倍の照射利用が見込まれているとともに、さらに医療診断用99Moやシリコン半導体のような、医療や産業に必要不可欠なものも中性子照射により製造することが求められている。このような照射利用の増加に伴い、利用者が求める中性子照射条件に合致した照射孔の選定が難しくなってきている。加えて、利用者の要望にあった照射孔が利用されている場合には、その照射孔の利用が終了するまで待ってもらうことが必要になり、タイムリーな照射が提供できないことが想定される。

(3) 求められている課題

このような状況を踏まえ、魅力的な照射試験として、技術的価値の高い照射データをタイムリーに利用者に提供するという視点から、利用者が希望する中性子照射条件にあった照射試験に対してある程度満足できる照射孔を選定し、その照射孔においてきめ細やかな中性子環境制御ができる手法の開発が望まれていた。

図1 再稼動後のJMTRに期待される役割

図2 再稼働後のJMTRの照射利用の予想

2.中性子照射環境制御手法の開発概要

(1) これまでの照射利用

JMTRの炉心図を図3に示す。JMTRの炉心中央部には燃料要素が配置されており、その燃料要素の周辺に、中性子反射体要素としてベリリウム枠とベリリウム反射体要素が、その外側にアルミニウム反射体要素が配置されている。これらの反射体要素は、照射キャプセルホルダーを兼ねるため、照射試料を入れた円筒形の容器(以下、照射キャプセル)を装荷できるように内部をくり抜いて製作されている。

照射キャプセルは、照射キャプセルホルダーに装荷して照射試験を行うが、熱中性子束密度や中性子スペクトルなどの中性子照射条件の制御は、1つの照射孔において「照射キャプセルホルダーの無垢材質を選択すること」と「照射キャプセル内に中性子調整材料を装荷すること」で行っていた。特に、「照射キャプセル内に中性子調整材料を装荷すること」による中性子照射条件の制御に関しては、ある一定の厚さを有する中性子調整材料を装荷することが必要なため、照射キャプセル内のスペースが狭くなり、照射試料の数量や大きさに制限が加えられていた。

(2) 照射キャプセルホルダーの開発

まず、予備解析評価により、照射キャプセルホルダーにベリリウム金属微小球等を詰め、その詰め具合を調整することによって、照射試料への中性子の当て方(熱中性子束密度や中性子スペクトル)を無段階に制御できることが分かった。この解析結果に基づき、ベリリウム金属微小球充填型照射キャプセルホルダーの製作性の検討を行った。ベリリウム金属微小球の製造方法とその写真を図4に示す。この微小球は、これまで核融合炉ブランケットに使用される中性子増倍材料として日本ガイシ株式会社と共同開発したものであり、回転電極法により製造される。本製造方法では、るつぼを用いないために不純物の混入が殆ど無く、さらに真空容器内で製造することから、表面酸化皮膜を抑制でき、高純度のベリリウム金属微小球の製造が可能である。この微小球を用いることにより、中性子照射による微小球の体積膨張を小さくすることができ、照射キャプセルホルダーがJMTRの炉内機器として長期間十分に使用可能であることも明らかにした。次に、照射試料への中性子の当て方を左右する微小球の詰め方の確認として、微小球の充填方法と大きさの異なる微小球を用いた充填率の影響を調べた。その結果を図5に示す。微小球の充填方法は、振動充填することにより緻密に充填できること、異なった大きさの微小球を組合せることにより、少なくとも充填率を60〜80%の範囲で調整できることを明らかにした。さらに、微小球の素材としてアルミニウム微小球との混合充填をすることも可能であることが分かった。一方、アルミニウム金属を用いた微小球充填容器の製作性も実証した。最後にベリリウム金属微小球充填型照射キャプセルホルダーの模型(図6)を試作することにより、微小球の充填手順や製作フローの策定を行い、製作性に見通しが得られた。

図3 JMTRの炉心図

図4 ベリリウム金属微小球の製造方法と微小球の写真

図5 微小球の充填方法と充填率への影響

図6 照射キャプセルホルダーの模型写真

3. 中性子照射環境制御手法の適用

中性子照射環境制御手法の開発により、照射試料への中性子の当て方(熱中性子束密度や中性子スペクトル)を制御することが可能となり、今まではできなかったきめの細かな中性子照射条件で照射試験ができるようになる。本手法の適用例を以下に示す。

(1) 熱中性子束密度の変更

照射キャプセルホルダー内のベリリウム金属微小球の充填率を変更することにより、同一照射孔での熱中性子束密度のきめ細かな調整が可能である。具体的には、ベリリウム金属微小球の詰め具合を調整し、中性子散乱断面積を制御することにより、これまでのアルミニウム金属とベリリウム金属照射キャプセルホルダーの範囲内で、照射試料への中性子照射環境を無段階で制御する。その一例を図7に示す。熱中性子束密度は1〜1.6倍程度の範囲で調整ができるようになる。なお、範囲として示した「1」はアルミニウム金属無垢材を、「1.6」はベリリウム金属無垢材を各々照射キャプセルホルダー材として使用した時の値である(アルミニウム金属無垢材を使用した場合の熱中性子束密度を1と規格化した時の値)。

今回開発した手法を利用すると、原子炉で製造するラジオアイソトープ(RI)については、RI用のターゲット材に当たる熱中性子の量を細かく制御できるので、必要となるRIの製造量を管理できるとともに、安定供給が可能となる。

例えば、医療や非破壊検査に使用される短半減期RIである192Irは100%国産化されており、大部分をJMTRで製造してきた。利用者の要求は、その都度異なり、要求を下回った放射能能強度(Ci)で出荷できないため、 利用者が必要な量以上(1個当たり10Ci以上)に照射し、利用者に余分な費用と時間をかけてきた。製造量は、熱中性子束密度に対してほぼ比例するため、本手法を利用することにより、192Ir の製造量を容易に制御できるようになり、利用者の要求に近い条件で出荷が可能となる。また、医療診断用99Mo製造に関して、本手法を用いることにより、同じ照射孔で99Mo製造量の増加が見込まれ、国内安定供給が期待できる。

また、軽水炉燃料の照射試験において、燃焼度に応じて燃料の線出力密度を200〜400W/cmの範囲で調整した照射試験を行い、燃料の照射挙動を評価することが求められている。1つの照射孔で通常の燃料試料を照射した場合、線出力が200W/cmと400W/cmでは燃料の中心温度は約600℃の差が生じるため、線出力密度をこれまで以上にきめ細かく制御ができるということは非常に価値があるものとなる。

さらに、シリコン半導体への31Pの添加量も本手法を用いて容易に制御できるようになるため、利用者の求める「シリコン半導体の抵抗値要求」に対してもきめ細かく対応が可能となる。

(2) 中性子スペクトルの変更

ITERテストブランケットモジュールや核融合原型炉のための材料開発研究等には、核融合炉の特殊な中性子環境を模擬した照射試験が必要不可欠であり、本手法の開発により、材料中に生成するヘリウムの生成量と弾き出し損傷量dpaの比(He/dpa比)をより簡便に制御できる照射試験が可能となった。照射キャプセルホルダーの概念図と中性子が照射試料に到達するまでの様子を図8に示す。

JMTRで照射した場合の照射キャプセルホルダーの中性子スペクトルの制御能力(He/dpa比)を図9に示す。これにより、核変換ヘリウムの照射効果への影響等を解明することができ、核融合原型炉に不可欠な構造材料開発に資することができる。また、これまで中性子調整材料を装荷して中性子スペクトルを制御していた照射キャプセルに比べ、その構造が簡略化するとともに、中性子調整材料を使用する必要がなくなるため、より多くまたは大型の照射試料が照射可能となるだけでなく、照射キャプセルの製作費(約1500万円)を約2/3に削減でき、利用性向上にも役立つことになる。

図7 照射キャプセルホルダーの熱中性子束密度の制御能力

図8 照射キャプセルホルダー概念図と中性子が照射試料に到達するまでの様子

図9 照射キャプセルホルダーの中性子スペクトルの制御能力(He/dpa比)


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