用語説明

1)高強度レーザー
 本研究で使用したレーザーであり、より正確には、高出力・超短パルスレーザーと呼ばれ、チタンサファイアレーザーなどがあります。レーザー光の瞬間ピーク出力を高めるために、レーザー光のパルス幅を短くしたものです。典型的には、フェムト秒からピコ秒のパルス幅ですが、そのパルスのピーク出力値は、テラワット(テラは10の12乗=1兆を表わす)に達します。このピーク値が高いことを利用して、非熱加工や、超高速現象の観察、荷電粒子加速、イオン化など、幅広い分野で利用されています。
 通常、レーザーの出力を上昇させていくと、レーザーを構成する光学素子に損傷を与えるようになるため、その出力値は制限することを余儀なくされます。極短パルスレーザーは、主にチャープパルス増幅法によりこの制限を一部解決しています。これは、一旦パルスを伸長した後に増幅を行い、増幅部での光学素子損傷を回避し、その後、パルス圧縮することで再び超短パルスを得るという方法です。これにより、高いピーク出力値を達成することができます。
2) 相対論
 相対論には、アインシュタインが提唱した理論で、特殊相対性理論と一般相対性理論があります。ここでは、特殊相対性理論を指しています。物理法則は慣性系によらない、光の速度は不変という2つの仮定から導かれる理論です。質量を持った物質は光速を超えられないこと、また、光速に近付くほど加速されにくくなることが帰結されます。
3)極端紫外光
 人間の目で見える光(可視光)の波長範囲(400〜700nm)に対して、赤外光は、赤色の外(波長が長い、周波数が低い)の光で、紫外光は、紫色の外(波長が短い、周波数が高い)の光を指します。赤外光はおおよそ、700nmから1mmの波長の光を、極端紫外光は、10-100 nmの波長の光を指します。
4)アト秒という非常に短いパルス
 アトは、1018分の1、100京分の1という接辞語で、1アト秒は100京分の1秒です。1アト秒は、光ですらわずか0.3ナノメートルしか進むことができない極短時間です。このようなパルスは、超短パルス光の高次高調波を用いた方法で、80アト秒が得られています。この時間スケールでは、原子中の電子を見たり、制御する新しい分野を切り拓くことができると期待されています。
5)集光強度
 レーザーなどの電磁波をレンズや凹面鏡で集光したときの単位面積当たりの仕事率(パワー)です。レーザープラズマの分野では、W/cm2 ワット毎平方センチメートルがよく使われています。ちなみに、地表面での太陽光の強度はおよそ0.1 W/cm2です。
6)真空を破壊
 ハイゼンベルク(1932年ノーベル物理学賞受賞)らによって、光の集光強度が1029 W/cm2(電場の強さで1018 V/m程度)になれば、真空から電子と陽電子が生成される(対生成と呼ばれる)と理論的に予測されています。これまでに、原子核近傍の強い電場の周辺でガンマ線が電子・陽電子の対に変換されるなどの現象は観測されてきましたが、真空から実際に取り出された例はありません。このような極限では、極めて完成された物理理論の検証など、新しい理論への手がかりが得られると期待されています。
7)超高強度場
 超高強度レーザーを物質に照射すると、レーザーの極めて強い電界によって物質を電離させる(プラズマ化)ことができます。この電場をさらに高くしていくと、電子の運動が光の速さに近付くために、レーザーが作り出す高強度電場と物質の相互作用は、非線形的かつ相対論的(特殊相対性理論)になります。このような高い強度では、新しい現象や物理が起きると期待されています。このようなレーザーによる高強度電場のもとでの物理現象を解明する新しい分野を超高強度場物理(科学)と呼んでいます。
8)プラズマ
 物質が電離し、イオンと電子に分離された状態。正負の荷電粒子から成り、それらが相互作用しながら集団的に運動しています。自然界では、蛍光灯の内部やキセノンランプ、オーロラなどでも見られます。プラズマは、幅広い分野で応用・研究され、工業用では、プラズマを用いた微細加工、プラズマディスプレイなどに応用されています。
9)航跡波
 高強度・超短パルスレーザーパルスをプラズマ中に集光させると、ある条件を満たしたときには、ちょうど水面を進む船がその後に波を作るように、プラズマの波を起こすことができます。このプラズマの波を、船の航跡になぞらえてレーザー航跡波と呼んでいます。このレーザー航跡波は、実際にはプラズマ電子の疎密波です。これによって、あたかもサーフィンなどの波乗りのごとく、電子を高エネルギーまで加速することができます。
10)陽電子
 電子と似た特徴(質量など)を持ち、電荷がプラスのもの。電子の反粒子です。陽電子は電子と反応して消滅し、数本のγ線に変わります(対消滅と呼ばれます)。陽電子およびこの対消滅を利用して、がんの発見用のPET(ポジトロン断層法)に使われています。

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