2009(平成21)年 6月4日
株式会社フジタ
J-PARCセンター

中性子実験のノイズを劇的に低減できる遮蔽材料を実用化
−J-PARCでの最先端研究に貢献−

株式会社フジタ(社長:上田卓司 以下「フジタ」)は、J-PARCセンター(日本原子力研究開発機構 (以下「原子力機構」)および高エネルギー加速器研究機構の共同運営組織、センター長:永宮正治)と共同で、中性子実験※1における計測ノイズを劇的に低減する高濃度ボロンモルタルの開発に成功しました。さらに、この高濃度ボロンモルタルと普通コンクリートを一体化する技術を確立し※2(特許出願中)、J-PARC※3物質・生命科学実験施設の冷中性子ディスクチョッパー型分光器(BL14)※4に、外部への放射線遮蔽と高精度中性子実験を同時に実現する中性子遮蔽体として導入しました。今後、中性子実験を使った学術研究および産業利用への貢献や、PET画像診断施設※5、原子力関係施設等への適用が見込まれています。


高濃度ボロンモルタルパネル付きプレキャストコンクリート(PCa)板組み立て(写真左)と、BL14への設置遠景

通常、中性子実験では、中性子ビームを試料に入射させ、試料から散乱した中性子のみを正確に検出する必要がありますが、実際の実験では、周辺機器や遮蔽体等で反射・散乱された中性子が計測データにノイズとして混入するという問題がありました。こうした事情から、高精度の中性子実験を実現するため、ノイズとなる中性子を効率よく吸収・低減する方策が強く求められていました。

中性子を効率的に吸収することのできる材料としてボロン(ホウ素)がよく知られていますが、今回、フジタと原子力機構の共同開発により、化学的に安定なホウ素化合物であるB4C(炭化ホウ素)を高濃度に配合したモルタル(セメントに砂を混ぜて水で練ったもの)を開発することに成功しました。この高濃度ボロンモルタルでは、ノイズとなる中性子の低減を目的として従来使用されてきたホウ酸樹脂※6に比べて、約5倍のホウ素含有量を実現しています。さらに、原子力機構の研究用原子炉JRR-3に設置されたCHOP分光器※7を使った検証実験により、一般的に遮蔽体として用いる普通コンクリートに比べて、ノイズとなる中性子を低減させる効果が約10倍程度向上することを確認しました。

今回開発に成功した高濃度ボロンモルタルでは、通常のモルタルと同程度の材料特性を有する配合設計がなされており、パネルに成型することで普通コンクリートと一体にして組み立てることが可能となりました。こうして一体化されたコンクリート板は外部への放射線遮蔽と中性子実験の高精度測定を同時に実現するものであり、J-PARC物質・生命科学実験施設における中性子実験装置の冷中性子ディスクチョッパー型分光器(BL14)に導入されました。今後、中性子実験を使った学術研究および産業利用の更なる進展への貢献が期待されるとともに、PET画像診断施設※5や原子力関係施設等に広く適用されることが見込まれています。

※1 中性子実験:
物質の持つ機能(高温超伝導や水素吸蔵など)の起源を知るために、中性子が測定対象の物質と相互作用を起こしてそのエネルギーを変化させる様子を調べる実験。
※2 新規モルタルを普通コンクリートと一体化させる技術を確立:
本件で開発された「高濃度ボロンモルタルパネル付プレキャストコンクリート板」はフジタが特許出願中
※3 J-PARC:
世界最高クラスの大強度陽子ビームを生成する加速器と、その大強度陽子ビームを利用する実験施設で構成される最先端科学の研究施設。
※4 冷中性子ディスクチョッパー型分光器:
エネルギーの極めて低い中性子である冷中性子を使って中性子実験を行うための最新鋭の実験装置。
※5 PET画像診断施設:
がんの検査を行うための施設。あらかじめがん細胞に目印をつけておき、それをPET(陽電子放射断層撮影:Positron Emission Tomography)により診断するもので、初期段階のがん細胞も発見できる。この目印をつける試薬を放射線発生装置により生成している。
※6 ホウ酸樹脂:
ホウ酸をエポキシ接着剤で固めて板材化したもので剛性や強度に乏しく、製作や施工に手間がかかるほか、ホウ素含有量を高めることに限界がある。
※7 研究用原子炉JRR3に設置されたCHOP分光器:
原子力機構内に設置された研究のための原子炉であるJRR-3で冷中性子を取り出すための装置。

以上

参考部門・拠点:J-PARCセンター

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