平成21年5月26日
独立行政法人日本原子力研究開発機構
国立大学法人 東北大学
国立大学法人 東京大学
学校法人 京都産業大学

「重い電子」が作るフェルミ面の直接観測に世界で初めて成功
−磁性と共存する不思議な超伝導の機構解明への糸口−

独立行政法人日本原子力研究開発機構(理事長 岡ア俊雄、以下「原子力機構」という。)量子ビーム応用研究部門の岡根哲夫研究副主幹、国立大学法人東北大学(総長 井上明久)大学院理学研究科物理学専攻の青木晴善教授、国立大学法人東京大学(総長 濱田純一)大学院理学系研究科物理学専攻の藤森淳教授、学校法人京都産業大学(学長 坂井東洋男)大学院理学研究科物理学専攻の山上浩志教授らの共同研究グループは、異常に大きな見かけ上の質量を持つ「重い電子1)」が作るフェルミ面2)を世界で初めて直接観測することに成功しました。これによって、重い電子が担う電気伝導の性質を様々な金属ごとに判別することを可能にしました。

金属中の電子は、動き回って電気伝導を担う「遍歴電子」と、動き回らずに磁性を担う「局在電子」に分けられます。この二種類の電子の間に強い相互作用が働いて混じり合うと、見かけ上通常の電子の10〜1000倍にも重くなったように見える重い電子が現れます。この重い電子の性質を明らかにすることは、磁性と共存する超伝導3)の機構解明につながると考えられています。一方、金属は固有の形を持つフェルミ面を必ず持っており、各金属の電気伝導の性質がその形の違いとして表れるため、フェルミ面は「金属の顔」と呼ばれています。もし、重い電子が作るフェルミ面を観測できれば、重い電子が担う電気伝導の性質について金属ごとの相違点を精密に研究できるようになりますが、重い電子が作るフェルミ面を直接観測した実験はこれまでありませんでした。

今回当研究グループは、大型放射光施設SPring-8の原子力機構専用ビームラインBL23SUにおいて、軟X線放射光を用いた「共鳴角度分解光電子分光」4)実験によって従来の手法ではできなかった特定の電子軌道の選択的観察を行い、重い電子がフェルミ面を実際に作っていることを直接観測することに世界で初めて成功しました。今後、共鳴角度分解光電子分光法を用いて、重い電子がどのようなフェルミ面を作る時に超伝導や磁性が発現するかを系統的に明らかにしていくことで、重い電子を持つ金属で見られる磁性と共存する超伝導の機構解明の進展が期待されます。

本研究成果は、米国物理学会誌Physical Review Lettersに平成21年5月27日(オンライン版)に掲載される予定です。

以上

参考部門・拠点:量子ビーム応用研究部門

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