平成21年4月23日
J-PARCセンター
T2K実験グループ

J-PARCニュートリノ実験施設でニュートリノビーム生成開始

大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構(高エネ機構)と独立行政法人日本原子力研究開発機構(原子力機構)が共同で茨城県東海村に建設した大強度陽子加速器施設J-PARC※1のニュートリノ実験施設において、平成21年4月23日19時09分、ミュー粒子の信号が、ビームラインの最下流部に設置されたミューオンモニターにより初めて確認された。ミュー粒子は、陽子ビームが物質に当たり生みだされたパイ中間子が崩壊した結果、ニュートリノとともに生成される素粒子であり、今回の観測は、ニュートリノが当施設において初めて生み出されたことを意味する。

今後、J-PARCニュートリノ実験施設により生み出されたニュートリノビームを用いてニュートリノの性質を解明するT2K実験※2が推進される。

■概要

T2K実験は、J-PARCニュートリノ実験施設で発生させた世界最高強度のニュートリノビームを295km離れた東京大学宇宙線研究所神岡宇宙素粒子研究施設のニュートリノ観測装置スーパーカミオカンデ※3に向かって打ち出し、ニュートリノが飛行中に別の種類のニュートリノに変わるニュートリノ振動という現象を詳細に調べる実験である。

J-PARCニュートリノ実験施設は、高エネ機構が中心となり設計、建設されたニュートリノビーム生成施設で、K2K実験※4のおよそ100倍もの強度を持つビームを生成できる、次世代のニュートリノ研究を担う最先端の施設である。平成16(2004)年度から建設が開始され平成21(2009)年3月に完成し、加速器から陽子ビームを初めて受け入れる調整作業が開始された。

J-PARCのメインリングからキッカーと呼ばれる電磁石を用いて蹴り出された陽子ビームは、多数の常伝導電磁石や超伝導電磁石、ビームモニターを軌道上に配列した一次ビームライン※5を通って西向きに曲げられ、ターゲットステーション内のグラファイト製標的に衝突する。陽子ビームが標的に衝突すると、多数のパイ中間子が生成される。このパイ中間子を電磁ホーンと呼ばれる特殊な電磁石によって前方に収束させた後、ディケイボリュームと呼ばれる長さ100mのトンネルに入射し、飛行中にニュートリノとミュー粒子の対に崩壊させる。

ミューオンモニターは、ミュー粒子を観測することにより、間接的にニュートリノビームの方向およびその安定性を監視するための測定器で、ビームライン終端部の地下約18mの実験室内に設置されている。今回ミューオンモニターによりミュー粒子の信号が観測されたことは、ニュートリノビーム生成が始まったことを意味し、T2K実験がいよいよ始まったといえる。

ビームラインの調整および放射線施設としての運転時検査を目標としたビーム供給はこの5月で一旦終了する。その後、残りのビームライン機器や前置検出器の据付、最終調整を行った後、今秋からビーム調整が再開される予定である。今後、慎重にビーム強度を上げていき、スーパーカミオカンデにおける最初の事象を検出することが今後当面の目標となる。

以上

参考部門・拠点:J-PARCセンター

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