用語解説

1)レーザー駆動陽子線:
陽子とは水素の原子核であり、陽子を一定のエネルギーまで加速したものを陽子線と呼ぶ。超高強度極短パルスレーザーをターゲットに照射することにより発生する陽子線をレーザー駆動陽子線と呼ぶ。この陽子線は従来の加速器を用いて発生させた陽子線に比べ装置の小型化が可能である。また、短いパルス幅をもち、高い直進性を示すという特性を生かして、産業利用、医療応用が広く期待されている。
2)DNA2本鎖切断:
DNA鎖切断とは、DNAを構成するリン酸基と水酸基が解離した状態であり、放射線などの外的要因やDNA消化などの内的要因によって生じる。中でも、DNA2本鎖切断は、2重らせん構造を形成しているDNAの両鎖に切断が生じる損傷であり、がん細胞を含む生物にとっては、最も修復が困難な損傷であるため、がん細胞死誘導の原因となる。
3)粒子線がん治療装置:
粒子線とは、原子核を加速器によって光速の数百分の一から数分の一程度にまで高速に加速したものを指す。粒子線がん治療装置は、体内に粒子線の一種である陽子線または炭素線を照射してがん細胞を破壊する。従来のエックス線などによる治療と違い、体の表面ではなく、病巣に近い場所で放射線量が最大となるため、高精度でがんの病巣のみを破壊することができる。身体機能の喪失や副作用といった人体の悪影響も少ない。
4)高強度極短パルスレーザー:
パルスの拡張・圧縮を利用して、短パルスであるが高出力が得られる小型レーザー装置。1瞬(100フェムト秒以下)ではあるが、世界中の総発電量をも上回る超高強度出力(10兆〜100兆ワット以上)が得られる。例えば、100万キロワット発電所で発生する電力の1万基から10万基分に相当する。
5)従来型の加速器からのビーム:
粒子の加速には、電場を用いる。電荷をもった粒子を電場の中へ置くと、加速されエネルギーが高くなる。よく使われている二つの典型的な加速器は、1)多数の電極を直線上に並べ、荷電粒子を高エネルギーまで加速する線形加速器と呼ばれる装置(リニアックとも呼ばれる)、2)電極は一つしかないが、磁石の中で荷電粒子をぐるぐると何回もまわすことにより、何度も加速する円形加速器(サイクロトロンやシンクロトロンがこれに相当)、がある。より大きなエネルギーを得るためには、その装置の大きさ(線形加速器では長さ、円形加速器では半径)を大きくする必要があることと、2次的に放射される電子線やX線の遮蔽のための防御壁をより厚くする必要があることが加速器全体の大きさの巨大化という問題点を招いている。
6)リン酸化ヒストン蛋白質(γ-H2AX):
ヒストンとは、染色体を構成するタンパク質の一群であり、非常に長い分子である DNA を核内に収納する役割を担う。H2AXはヒストンの一種。DNA2本鎖切断が生じた場合の細胞応答の一つに、H2AXの139番セリン部位のリン酸化があり、これはγ-H2AX(リン酸化H2AX)とよばれる。γ-H2AXに特異的な蛍光標識抗体を用いることで、DNA2本鎖切断の場所を視覚的に検出することが可能となる。
7)線エネルギー付与(LET、Linear Energy Transfer):
放射線が物質中を通過する際、飛程の単位長さ当りに平均して失うエネルギーをいう。各種の放射線のうち、X線、γ線はLETが小さいので低LETといい、α線、中性子線、その他重荷電粒子、核分裂破片のLETは大きいので高LETという。
8)生物学的効果比(RBE、Relative Biological Effectiveness) :
放射線の種類による効果を比較するために、利用される指標。ある反応を起こすのに必要な基準となる放射線(X線やガンマ線など)の量を、同じ反応を起こすのに必要な比較したい放射線(粒子線など)の量で割ることにより算出される。

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