用語解説

1) 強く相互作用した電子
銅(Cu)やニッケル(Ni)などの遷移金属を含む酸化物では電子がお互いに強く相互作用しあった結果、縞状(ストライプ状)や市松模様状(チェッカーボード状)に周期的に整列した状態が実現することが知られている。今回の測定に用いたLa2-xBaxCuO4 (x=1/8)やLa2-xSrxNiO4 (x=1/3)は、強い相互作用の結果、縞状に電子が整列する典型物質である。
2) 集団励起(集団的な揺らぎ)
周期的に整列した電子がそろって結晶全体に渡って空間的・時間的に揺らいで振動すること。電子が1個だけ独立して動く個別的な揺らぎと区別された電子の運動と考えられている。
3) 共鳴非弾性X線散乱法
SPring-8などの大型放射光施設からのX線を利用することで、はじめて可能となった新しい実験手法。衝突の前後で物体の力学的エネルギーの和が変化しない散乱を弾性散乱、衝突の前後でエネルギーが変化する散乱を非弾性散乱という。放射光X線を試料に入射すると、X線の非弾性散乱が起きて、入射エネルギーと異なる散乱エネルギーを持つX線がわずかに生じる。これを測定することで、揺らいでいる電子の空間・時間周期を知ることができる。また、入射エネルギーの量を調整して電子が共鳴するようにすると、その散乱X線が増幅される。今回は銅の原子核に近い軌道にある内殻電子準位のエネルギーにX線のエネルギーを共鳴させることで、銅原子(CuO2面)にある電子の揺らぎが観測できた。
4) 独自の改良
縞状に整列した電子の集団的な揺らぎが現れる1eV以下の領域は、通常、非常に強い弾性散乱(エネルギー変化しない散乱)の広がりが重なってきて観測が難しい。我々は、放射光X線と測定装置の配置を弾性散乱が最小になるようにして測定する方法をとり、今回の成功につながった。
5) 遷移金属酸化物
銅(Cu)やニッケル(Ni)など、周期律表で第3族から第11族に存在する遷移金属元素を含む酸化物のこと。遷移金属酸化物の多くは、電子が強いクーロン相互作用のために構成原子や構成分子の上で止まってしまって動くことができなくなり、電気が流れなくなった絶縁体になる。通常の絶縁体はバンド絶縁体と呼ばれ、電子がないので電気が流れないが、遷移金属酸化物の場合には電子があるのに電気が流れない。これら2種類の絶縁体を区別するため、電子があるのに電気が流れない絶縁体は、最初に注目した理論物理学者の名前をとってモット絶縁体とも呼ばれる。
6) 高温超伝導体
1986年に後のノーベル賞受賞者のベドノルツとミューラーにより発見されたLa2-xBaxCuO4が最初。その後様々な銅酸化物高温超伝導体が発見され、現在ではリニアモーターカーや高効率送電線などへの応用が研究されている。実現すれば現代のエネルギー環境の改善に多大な貢献をすると期待されている。
7) 巨大磁気抵抗効果
磁場の印加により電気抵抗が何桁も変わる現象を言う。大容量ハードディスクなどの不揮発性メモリーの実現に応用されている。

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