【用語説明】

1)HIV-1プロテアーゼ
ヒト免疫不全ウイルス(HIV-1: Human Immunodeficiency Virus Type 1)が持つタンパク質分解酵素です。アミノ酸99個で形成する分子量約10000のポリペプチドが2つ結合すると2量体を形成し機能を発揮します。ウイルスの構成や増殖に必要な酵素タンパク質は、一旦前駆体のポリプロテイン(鎖状に繋がるタンパク質)に合成後、HIV-1プロテアーゼが切断することで個々のタンパク質が完成します。従ってHIV-1プロテアーゼの機能を抑制できれば、ウイルスの機能タンパク質は完成しないため、ウイルスの形成や増殖も抑制できます。
2)HIV-1プロテアーゼ阻害剤KNI-272
京都薬科大学木曽良明教授のグループが合成したHIV-1プロテアーゼを阻害する分子です。HIV-1プロテアーゼに対して非常に高い親和性を持ち、ヒドロキシメチルカルボニルという特徴的な分子構造を有しています。
3)中性子結晶構造解析
結晶への中性子照射で得られた散乱中性子から、結晶の構成分子の詳細な3次元構造情報を得る分析法です。原子、分子が規則正しく並んだ”結晶”に中性子を照射すると、タンパク質を作る複数の原子に散乱した中性子が干渉して”ブラッグ反射”と呼ばれる回折像が得られます。このブラッグ反射を強度測定し、計算機で解析すると単結晶の構成分子の3次元構造が得られます。同様の実験はX線でも可能ですが、X線の散乱強度は原子が持つ電子数で決まるのに対し、中性子のそれは原子核と中性子の相互作用の強度で決まります。
4)生体高分子用中性子回折装置BIX-4
BIX-4は検出器部分に中性子イメージングプレートを用いて、効率的な単結晶中性子構造解析を可能にした分析装置です。実験室のX線発生装置やSPring-8等の放射光施設で得られるX線と比べて研究用原子炉で得られる中性子は強度が弱く、単結晶中性子構造解析には大型の単結晶と長い測定時間が必要です。BIX-4は中性子の弱点補完のために、大面積の中性子用2次元検出器”中性子イメージングプレート”で試料単結晶を取り囲み、従来型に比べて大幅に測定効率を向上させた単結晶中性子回折計です(図3、図4)。タンパク質等の様々な生体高分子の立体構造解析装置として、2002年に日本原子力研究所(当時)の新村信雄(現、茨城大学特任教授)らによって開発されました。

図3.生体高分子用中性子回折計BIX-4の外観

図4.BIX-4の模式図

5)触媒残基
酵素の化学反応促進(触媒)時にハサミとして機能する重要なアミノ酸です。この触媒残基付近の結合分子は、HIV-1プロテアーゼの機能を止める抗HIV薬として使用可能です。HIV-1プロテアーゼには2つの触媒残基(Asp25とAsp125)があり、ともにHIV-1プロテアーゼの25番目に存在しますが、2量体を形成するHIV-1プロテアーゼは相互区別のため、番号を25と125としています。

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