用語説明

1)レーザー・コンプトン散乱ガンマ線:
加速器で加速した高エネルギー電子とレーザーの衝突で発生するガンマ線である。レーザー光を光子(粒子)と考えれば、高エネルギー電子による光子の反跳と見なせる。発生するガンマ線のエネルギーは電子のエネルギーの関数であり、その2乗に比例する。また、指向性の良いビーム状のガンマ線が得られる特徴がある。
 なお、静止した物体にX線を照射した時に物体中の電子によってX線が散乱される現象は、コンプトン効果(コンプトン散乱)とよばれる。この時、散乱X線は入射X線よりも長い波長(低いエネルギー)となる。光の粒子性を示す重要な実験として、これを発見した米国の物理学者アーサー・コンプトンは1927年にノーベル物理学賞を受賞している。われわれの実験は、光速に近い速度で運動する電子による光(レーザー)の散乱であり、入射光よりも波長の短い光(エネルギーの高い光)が散乱される点で、通常のコンプトン散乱と異なる。レーザー・コンプトン散乱は、逆コンプトン散乱ともよばれる。
2)同位体:
個々の元素は、質量の異なる同位体から構成される。例えば、安定に存在する炭素は炭素12、炭素13から構成される。同位体の違いはその原子核に含まれる中性子の数の違いである。同一の元素であれば化学的な性質は同じため、一般に同位体を区別することは難しい。放射線を出して異なる種類の元素または同位体へ変換するものを放射性同位体という。
3)原子核共鳴蛍光散乱:
原子核は陽子数と中性子数で定義される。異なる原子核ごとに固有の励起状態が存在している。この励起状態に等しいエネルギーのガンマ線(あるいは電子線等)が照射された場合、原子核はガンマ線を吸収することで励起した後、等しいエネルギーのガンマ線を放出して脱励起する。この現象を原子核共鳴蛍光散乱(Nuclear Resonance Fluorescence:NRF)とよぶ。
4)TERAS:
独立行政法人 産業技術総合研究所(つくば市)の電子蓄積リングであり、放射光施設として利用されている。円形の軌道に高エネルギー電子を周回させる装置である。その一部にレーザー・コンプトン散乱ガンマ線発生のための機器が設置されている。外部研究者が利用可能なレーザー・コンプトン散乱ガンマ線ビームラインは世界で3カ所のみであり、TERASのほかには、兵庫県立大学のNewSUBARU、米国デューク大学のHIGSがある。
5)MeV:
メガエレクトロンボルト。エネルギーの単位。1Vの電圧が掛かった状態で、1個の電子が加速されることで得られるエネルギーが1eV。1MeVはその1,000,000倍。また、keV(キロエレクトロンボルト)は 1eV の1,000倍である。
6)Ge半導体検出器:
放射線検出器の一種である。ガンマ線計測に用いる場合に高いエネルギー分解能が得られる特徴をもつ。

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