研究の経緯及び内容

【背景】

白金族元素ナノ粒子の作製方法として、気相凝縮法、機械的粉砕法、熱結晶化法、化学沈殿法、ゾル−ゲル法及びエアゾールスプレー熱分解法等の多様なプロセスが開発されてきた。

この代表的手法である機械的粉砕法は、大きな粒子をナノ粒子に粉砕する際に不純物質の混入や、得られたナノ粒子が、ミクロン範囲の大きさに凝集する等の問題があった。また、化学沈殿法は、化学反応の進行によりナノ粒子を核から成長させる大規模システムが必要なため、費用対効果の観点で問題があった。

そのため、ナノ粒子のより効率的かつ廉価な製造方法が求められ、各国間で活発な研究が行われていた。

【本研究内容】

(白金族元素ナノ粒子の生成)

事前に増殖させた鉄還元菌を水洗いして、白金族イオンとして塩化白金酸、塩化パラジウム酸を溶解した溶液に添加し、電子供与体6)である水素を添加した。溶存白金、パラジウム濃度は微生物と接触後、速やかに減少し、微生物を添加した場合だけ溶液中に黒い沈殿物が生成し(図1)、電子顕微鏡(SEM)観察(図1)により微生物細胞表面に白金あるいはパラジウムを含むナノ粒子が生成したことを確認した。一方、鉄還元菌を加えない場合、及び殺菌した鉄還元菌を加えて還元剤を添加した場合には直径の大きな白金及びパラジウム粒子が生成した(図2)。

図1

図2

(微生物細胞-白金族元素ナノ粒子の触媒材料としての有効性)

次に、生成した微生物細胞-白金族元素ナノ粒子を触媒材料として用いるため、珪藻土を加えて、よく撹拌したのち、ろ過により珪藻土を回収した。その回収した珪藻土に担持された微生物−白金族元素ナノ粒子(以下、珪藻土担持ナノ粒子とする)をカラム(物質の分離などに用いる円筒状の容器または装置)に充填し、同位体交換実験に提供した。

名古屋大学・エコトピア研究所、榎田洋一教授のグループにより、水素ガス(組成比が2:1のH2-D2混合ガス)を用いて同位体交換の触媒作用を確かめる実験を行った(図3:H2-D2混合ガスを触媒カラム中に流した際に得られた流出ガス中の水素分子を質量分析器で分析して得られたHD/D2存在比の経持変化を示す)流入した水素ガスのHD/D2存在比は0.01程度であるが、触媒カラムを通過することにより、その割合が時間の経過とともに増加し、65分後にはHD/D2存在比が0.62になった。一方、白金酸イオンを含む溶液と接触していない、すなわち白金族元素ナノ粒子を付着していない微生物を珪藻土に担持した試料を用いたカラムにより、同様の実験を行った結果、HD/D2存在比は0.01であった。微生物を用いずに沈殿させた白金粒子を用いて同位体交換実験を行ったところ、微生物細胞に生成した白金とほぼ同じ量の白金粒子を用いたにも関わらず、65分後にはHD/D2存在比が0.10にまでしかならなかった。したがって、本技術により作製した珪藻土担持ナノ粒子は優れた触媒材料として使用できることが明らかとなった。

(今後の研究展開)

微生物を用いるバイオ手法により経済的で環境に優しい白金族元素ナノ粒子触媒作製法の開発に繋がるものと期待される。さらに、鉄還元菌は今回発見した機能以外にもウランを鉱物化するなど、様々な機能を有している。また、酵母など他の種類の微生物も優れた機能を備えている可能性がある。今後は、微生物の新たな機能の発見と、その機構を解明していき、新たなバイオ手法を提案していきたい。

また、微生物をタンパク質に置換することで、強度の放射線状況下で用いる新たな触媒の開発にも努めていく予定である。

図3


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