用語説明

1)フラーレン
1985年に発見された炭素の新しい同素体。代表的なC60は炭素原子60個がサッカーボールの形状に結合した集合体(クラスター)分子で、直径は約0.7nm(1nmは10億分の1m)。C60は、全ての分子が単一の構造を有する半導性分子であること、異なる原子・分子による化学的な修飾が可能なこと、力学的に強固で熱的や化学的にも安定であること、大量生産が実現されていることなどの特徴から、医療からエレクトロニクスに至る多分野への応用が注目されている。
2)コバルト
3d遷移元素に属する鉄族元素のひとつ。結晶状態の単体は銀白色で強磁性を示す。元素記号Co、原子番号27。
3)トンネル磁気抵抗(Tunnel Magnetoresistance: TMR)効果
磁気抵抗効果の中で、絶縁性の領域(絶縁層)で隔てられた強磁性金属/絶縁層/強磁性金属の構造に於ける界面間の電子のトンネルによる電気伝導度が強磁性金属の相対的な磁化方向に依存して変化する現象をトンネル磁気抵抗効果という。また、その変化の大きさを磁気抵抗率(Magnetoresistance Ratio: MR)という。二つの強磁性層の磁化方向が平行(P)と反平行(AP)の場合の抵抗をそれぞれRP, RAP、二つの強磁性層のスピン偏極率をPとすると、MRの大きさは
 MR=(RAP -RP)/RAP=2P 2/(1- P 2)
と表される。よってスピン偏極率(P)が大きいほどMRは大きくなる。グラニュラー構造の薄膜におけるトンネル磁気抵抗効果の概略は図6を参照。
4)電子スピン
スピンが生じる機構は、現在でも完全には解明されていないが、角運動量(angular momentum)を生じることから、電子自身の自転のようなものではないかと考えられている。電子スピンには、上向き/下向きの状態があり、スピントロニクスでは、電子スピンの状態を制御・識別できる材料や素子を研究・開発することでスピントランジスタ等の新しい機能を持ったデバイスを実現することを目指している。物質中で上向き/下向きのスピンを持った電子の数に偏りが生じることをスピン偏極という。スピン偏極率とは、フェルミ準位の付近での上向き/下向き電子数の差を表す。
5)X線磁気円偏光二色性(X-ray magnetic circular dichroism: XMCD)
X線磁気円二色性とも言う。磁性体に円偏光を照射すると、磁化軸まわりの左右の円偏光によりその吸収強度が変化する磁気円偏光二色性と呼ばれる現象がある。近年、放射光技術の発展に伴い、X線による原子の内殻から外殻への電子遷移を伴うX線吸収を用いた磁気円偏光二色性実験が可能となり、物質を構成する特定の元素の磁気・スピン状態に関する情報を選択的に得ることができる有力な手法として、磁性材料の研究に用いられている。
6)磁気ランダムアクセスメモリー
磁気によってデータを記憶するメモリ。Magnetoresistive Random Access Memory(MRAM)と呼ばれる。高速・不揮発のRAM として近年盛んに研究されている。MRAM 素子は、単にメモリ素子としての応用だけでなく、CMOSと組み合わせて論理回路を構成することもできる。またデバイス作製後でも磁気情報を書き換えることにより、論理回路の再構成が可能であることも特長としてあげられる。
7)スピントランジスタ
磁気抵抗効果によるスピン状態に依存した電気伝導特性にトランジスタとしての増幅機能を組み込んだ素子。二個の電極間(ソース、ドレイン電極と呼ばれる)のスピン状態に依存した電気伝導を第三の電極(ゲート電極と呼ばれる)でスイッチングや増幅を行う。電子スピンを利用した論理回路の実現に必要な素子機能である。

戻る