補足説明資料

1.背景

99mTcは、がん、心筋梗塞、脳卒中をはじめとする疾病の画像診断において欠かせない放射性同位元素7)であるが、半減期が約6時間と短いことから、その親核種である99Moのβ-崩壊8)により生成される99mTcを病院内などで調合して使用されている。一方、その99Moも半減期が約66時間と短いため、毎週のように供給することが必要となっている。

99Moは、カナダや欧州などの海外から100%輸入しており、しかもその製造元の各国の原子炉はいずれも老朽化(表1)が進んでおり、供給の不安が懸念されている。

このため、我が国においても、平成20年7月に日本学術会議から提言された「我が国における放射性同位元素の安定供給体制について」(添付資料)に基づき、JMTRでのRI製造について、放射性医薬品メーカーや関連団体などと意見交換を行ってきた。その結果、原子力機構・理事長の諮問機関である「JMTR運営・利用委員会」のもとに「99Mo国産化検討分科会」を設置し、99Moの製造・供給体制を含めた技術的検討に本格的に着手し、国民の安心・安全に寄与するため、輸入だけに依存しない体制の構築を目指していくこととなった。当分科会のメンバーは表2のとおり、核医学界の医師等放射性医薬品に関連する外部有識者を専門委員として、医薬品原料としての品質、国産化に係る問題点の摘出と技術的検証を行っていく。

表1 99Moを製造している世界の主な原子炉

表2 「99Mo国産化検討分科会」のメンバー
部 会 長 上塚  寛 独立行政法人日本原子力研究開発機構
委員 中村 吉秀 社団法人日本アイソトープ協会
委員 細田 敏和 株式会社千代田テクノル
専門委員 荒野  泰 国立大学法人千葉大学大学院薬学研究院
専門委員 池渕 秀治 社団法人日本アイソトープ協会
専門委員 小須田 茂 防衛医科大学校病院
専門委員 小林 正明 富士フイルムRIファーマ株式会社
専門委員 代田 静人 日本メジフィジックス株式会社
専門委員 竹内 宣博 株式会社千代田テクノル
専門委員 蓼沼 克嘉 株式会社化研
専門委員 波多野 正 日本メジフィジックス株式会社
専門委員 森川 康昌 富士フイルムRIファーマ株式会社
専門委員 柴田 徳思 独立行政法人日本原子力研究開発機構
専門委員 河村  弘 独立行政法人日本原子力研究開発機構
専門委員 村山 洋二 独立行政法人日本原子力研究開発機構

2.99Moの製造方法と診断例

主な99Moの製造方法としては、核分裂法と中性子放射化法がある。核分裂法は濃縮ウランを原料にして、原子炉内で核分裂を起こさせ、その結果、生成された多くの核分裂生成物(FP)中から99Moを抽出する方法である。一方、中性子放射化法は天然モリブデン中に存在する98Mo(存在比約24%)を原料として、原子炉内で中性子による照射を行い、生成された99Moを利用する方法である。現在、世界の主流は核分裂法である。99Moの製造方法等の比較を表3に示す。

99mTcは、がんをはじめとする疾病の画像診断において欠かせない放射性同位元素であるが、半減期が約6時間と短いことから、その親核種である99Moのβ-崩壊により生成される99mTcを病院内などで調合して使用されている。一方、その99Moも半減期が約66時間と短いため、毎週のように供給することが必要となっている。

99mTc製剤を用いた診断例を図1に示す。

表3 99Moの製造方法の比較

図1 99mTc製剤を用いた診断例((株)化研提供)

3.JMTRの改修と99Moの製造計画

JMTR(Japan Materials Testing Reactor)は試験研究用原子炉で、茨城県東茨城郡大洗町にある。原子炉の型式は軽水減速軽水冷却タンク型で最大熱出力は50MWである。平成19年度から4年間で原子炉施設の改修を行い、平成23年度から再稼動を計画している。その後、約20年間利用し、平成42年度頃まで運転を行う予定である。

JMTRの改修は、原子炉機器等の一部更新と照射設備の整備がある。原子炉機器等の一部更新については、原子炉制御系統、制御棒駆動装置、一次冷却系統、二次冷却系統、ボイラー・冷凍機、電源設備、排水設備、炉室給排気系統を更新することとなった。原子炉施設の一部更新と照射設備の整備の概要を図2に示す。

改修後のJMTRは、(1)現行軽水炉の高経年化対策等の「軽水炉の長期化対策」、(2)核融合炉用材料開発等の「科学技術の向上」、(3)医療診断用ラジオアイソトープ製造等の「産業利用の拡大」、(4)「原子力人材育成」等の役割を担う。再稼動後のJMTRに期待される役割を図3に示す。

JMTRにおける99Moの製造は、既設の「水力ラビット照射装置」を利用する。水力ラビット照射装置はラビットと呼んでいるアルミニウム製のキャプセルの中に照射試料を封入し、原子炉運転中に水流力によってラビットの挿入・取出しが可能な照射装置である。三酸化モリブデン(MoO3)のペレットを封入したラビットを原子炉内で中性子照射を行い、98Mo(n,γ)99Mo反応によって生成されたラビットを隣接するホットラボ施設のセル内で解体し、取り出したペレットを溶解後、99Mo原料として出荷する。99Mo製造フロー概念図を図4に示す。

また、99Mo製造と主な改修のスケジュールを図5に示す。

図2 原子炉機器等の一部更新と照射設備の整備の概要

図3 再稼動後のJMTRに期待される役割

図4 99Mo製造フロー概念図

図5 99Mo製造と主な改修のスケジュール

4.99Moの国産化への製造・供給体制

99Moの国産化のための製造・供給に関する体制(案)を図6に示す。現在、99Moはカナダ等から100%輸入し、製薬メーカーで調整後、病院等に供給され、放射性診断薬9)として年間約100万件のがん等の診断などに利用されている(図6の既存スキーム)。99Moの安定した供給を確保するためには、JMTRに99Moの製造設備を整備し、JMTRで照射した99Moを原料メーカーから、製薬メーカーに供給することになる(図6の新規検討スキーム)。この一部国産化することにより、万一輸入が滞った際でも、国内に99Mo-99mTcを供給できる等の有利点が生じるが、国産99Moの品質及び安定供給等の課題もあり、本検討会ではこのような課題を解決しつつ、国産化への模索を行う。

図6 99Moの国産化のための製造・供給に関する体制(案)

以上

添付資料:
日本学術会議 提言
「我が国における放射性同位元素の安定供給体制について」(関連箇所の抜粋)[PDF、413kバイト]

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