(用語解説)

1)大強度陽子加速器施設(J-PARC)
高エネ機構と原子力機構が共同で茨城県東海村に建設中の陽子加速器施設と利用施設群の総称。
加速した陽子を原子核標的に衝突させることにより発生する中性子、ミュオン、中間子、ニュートリノなどの二次粒子を用いて、物質・生命科学、原子核・素粒子物理学などの最先端学術研究及び産業利用が行われる予定。
平成20年5月30日には、物質・生命科学実験施設(MLF)においてJ-PARC初の中性子ビームの発生に成功。
2)超高分解能粉末中性子回折装置(SuperHRPD)
中性子を用いた最先端の物質構造科学研究を推進することを目的に開発が進められてきた実験装置で、MLFのビームライン、BL-08に設置されている。
核破砕により発生した中性子をMLFが開発した高分解能減速材で減速させ、「中性子導管(ガイド管)」と呼ばれるガラス製の管に誘導し、約100メートル先の装置に導いて回折実験を行う。中性子が走る距離が長いほど中性子の速度を精密に計測できるため、分解能が高い中性子回折実験を行うことが可能で、100メートルという長さから長尺ビームラインと呼ばれて開発が行われてきた。今年12月からの中性子利用実験開始を前に機器調整を行うとともに、さらなる高解像度達成を目指した開発研究が進められている。
3)分解能
見分けられる最小の距離や大きさなどで表される、測定・識別する能力。本稿では、物質を通過した中性子線が起こす回折現象を解析することによって、原子の位置をどの程度特定できるかを数値化したもの。回折を示すデータのピークがシャープなほど値が小さく、解像度が高いことを示す。(図3を参照)
4)量子ビーム
高エネルギー陽子を原子核標的に衝突させると、二次粒子として中性子、パイ中間子、K中間子、ミュオン、ニュートリノなどの「量子」と呼ばれる粒子が発生する。J-PARCの実験施設では、これらの量子をビームとして利用し、実験を行う。
5)核破砕反応
約1億電子ボルト以上の高エネルギーに加速された陽子を、水銀、鉛ビスマス、鉛、タングステン、タンタル、ウラン等の標的に入射することにより、標的の原子核がバラバラになり、陽子及び中性子などの多数の2次粒子を放出する反応を指す。
6)マルチフェロイック物質
誘電性や磁性などの性質をあわせもつ物質。電場をかけることによって物質の磁気的な性質を操作できることなどから、スイッチング素子等の開発に利用されている。現在、その性質の背後にある物理について、微視的レベルでの解明が求められている。
7)強相関電子系物質
金属にもなれば絶縁体にもなり、組成や条件によっては高温超伝導を示したり、また巨大磁気抵抗などの物理的性質をもつこともある物質。この特異な性質は、物質中の電子の間の相互作用が強いことに起因すると考えられているが、微視的レベルでのメカニズムはまだ十分に理解されていない。これらの理解は物理学上の重要なテーマである。

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