用語解説

1)半導体スピントロニクス
スピントロニクスは、電子が持っている「電気を流す性質」と「磁石になる性質」の2つの性質を利用し、まったく新しい機能を持つ素材や素子を開発する研究分野で、スピンエレクトロニクスとも言われている。現代社会を支えている半導体エレクトロニクスでは半導体を材料として用い、電子の「電気を流す性質」だけを使っている。半導体スピントロニクスでは、半導体工学と磁気工学を融合させて既存デバイスの限界打破と新機能の実現を目指している。
2)希薄磁性半導体
半導体の中に鉄やコバルト、マンガンなどの磁性をもつ原子を希薄(数%程度)に混入させた物質である。半導体は磁石の性質を持たないが、希薄磁性半導体では半導体と磁性体の特性が互いに関連した特異な現象が観測されており、半導体スピントロニクス材料として注目されている。
3)磁性原子
鉄やコバルト、マンガンなどの遷移金属、セリウムやネオジウムなどの希土類金属やウランなどのアクチノイドに代表される磁石の性質を示す原子。
4)スピン(磁性)自由度
電子は自転の向きにより上向きと下向きのスピンをもつことができる。どちらの向きを持つかは条件によって変わる。この電子のスピンが磁石の根源である。
5)MRAM
Magnetoresistive Random Access Memory の略語。磁気によってデータを記憶するメモリ。
 高速・不揮発のRAM として近年盛んに研究されている。MRAM 素子は、単にメモリ素子としての応用だけでなく、CMOSと組み合わせて論理回路を構成することもできる。またデバイス作製後でも磁気情報を書き換えることにより、論理回路の再構成が可能であることも特長としてあげられる。
6)量子コンピュータ
コンピュータ演算においては2進数(「0」と「1」)が使われる。半導体エレクトロニクスでは電子の流れ「電流」を用いて、電流が流れれば「1」、流れなければ「0」に対応させて現代のコンピュータ社会の実現を成功させた。半導体スピントロニクスでは、さらに電子のスピンの向きを、たとえば上向きを「1」、下向きを「0」とすれば、これも演算に利用できる。そして、個々のスピン情報を量子ビット(キュービット)として利用するのが量子コンピュータである。量子コンピュータは膨大な並列処理を可能にし従来のコンピュータに比べ格段に高い性能を発揮すると期待されている。
7)希薄磁性半導体ガリウムマンガンヒ素(Ga1-xMnxAs)
既存のエレクトロニクス材料であるIII-V族化合物半導体GaAs(ガリウムヒ素)を母体とし、Ga原子を磁性原子のMn原子で置換した物質であり、半導体スピントロニクスの有力候補材料である。
8)強磁性転移温度
一般に、強磁性を示す金属は、ある値以上に温度を上げると強磁性の性質を失う。この温度のことを強磁性転移温度(キュリー温度: Curie Temperature 略してTC)という。例えば、鉄は室温では磁石になっているが、温度を上げていくと770℃以上で磁石ではなくなる。つまりTCが室温以上でないと、日常生活の環境において磁石としての性質を利用できない。

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