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平成20年6月16日
独立行政法人日本原子力研究開発機構
国立大学法人群馬大学

重粒子線は、がん遺伝子Bcl-2に打ち克つことを発見
−Bcl-2高発現タイプのがんに重粒子線治療が有効−

独立行政法人日本原子力研究開発機構(理事長 岡ア俊雄、以下「原子力機構」)と国立大学法人群馬大学(学長 鈴木 守、以下「群馬大学」)は、がん遺伝子Bcl-21)が働いてガンマ線やX線に抵抗性を示す(死ににくい)がん細胞に対して、炭素イオンなどの重イオンビーム2)(重粒子線)では高い致死効果があることを明らかにしました。このことは、ガンマ線やX線などによる従来の放射線治療が効きにくいがんに、重粒子線による治療が有効である可能性を示すものです。これは、群馬大学大学院医学系研究科の浜田信行COE准教授(原子力機構協力研究員)、原孝光COE研究員(原子力機構協力研究員、現・東北大学大学院医学系研究科准教授)、中野隆史教授ならびに原子力機構量子ビーム応用研究部門マイクロビーム細胞照射研究グループの小林泰彦リーダーらによる研究成果です。

がんの中には、ガンマ線やX線など従来の放射線治療ではあまり治療効果のみられないタイプがあります。その一つに、がん遺伝子Bcl-2の働きによってアポトーシス(細胞の自殺)3)が抑制され、がん細胞が死に難くなるタイプがあり、乳がんの約8割、大腸がんの半数以上、メラノーマ(悪性黒色腫)の6割以上、肺がんの約3割、膵臓がんの約4分の1など、実際のがんの半数近くがこれにあたります。これまでに、原子力機構と群馬大学は、高崎量子応用研究所に設置されているイオン照射研究施設(TIARA)4)を用いてがん細胞への重イオン照射効果の研究を進めてきましたが、今回、がん遺伝子Bcl-2を組み込んで人為的に過剰発現5)させた培養がん細胞に重イオンビームを照射したところ、抵抗性を示さないことを発見しました。がん治療に抵抗性(死ににくさ)を示すがん遺伝子Bcl-2が活発に働くと、ガンマ線やX線では抵抗性を示すのに対して、「重粒子線」では、がん遺伝子Bcl-2の有無に関わらず、抵抗性は見受けられませんでした。この結果は、がん遺伝子Bcl-2の働きによって従来の放射線治療が困難ながんであっても、重粒子線治療が有効である可能性を世界で初めて示したものです。

本研究は、群馬大学21世紀COEプログラム「加速器テクノロジーによる医学・生物学研究」の一環として、原子力機構と群馬大学との共同研究で実施したものです。両機関は、今後も、がん遺伝子Bcl-2を標的とする重粒子線治療の基礎的検討をさらに進めることにより、重粒子線がん治療の発展及び世界的普及に貢献してまいります。なお、この研究成果は、Radiotherapy and Oncology誌の7月号に掲載される予定です。

参考部門・拠点:量子ビーム応用研究部門

以上


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