【補足説明資料】
 
1. 高温ガス炉
 高温ガス炉は、900℃を超える高温熱を原子炉から取り出せ、その熱は水素製造等の発電以外の用途に利用できる。また、低温域までの熱を発電、海水淡水化、地域暖房等に用いることで熱利用率は80%近くになる。そのため、炭酸ガス排出低減に貢献する先進的システムとして大きな期待が寄せられている。
 また、高温ガス炉は、@冷却材には化学的に不活性なヘリウムガスを用いているため、冷却材が燃料や構造材と化学反応を起こさないこと、A燃料被覆材にセラミックスを用いているため、燃料が1600℃の高温に耐え、核分裂生成物(FP)の保持能力に優れていること、B炉心に熱容量の大きい黒鉛を用いているため、万一の事故に際しても炉心温度の変化が緩やかで、燃料健全性が損なわれる温度に至らないこと等の安全性に優れた原子炉である。このような安全性を生かして安全設備を簡素化できること、高温で高効率であることなどから、経済性にも優れた原子炉である。
 下図は高温ガス炉の構造を示したものである。




2. 日本の高温ガス炉開発状況
 平成17年10月に策定された原子力政策大綱には、革新的な技術概念に基づく技術システムの実現可能性を探索する研究開発として、高温の熱源や経済性に優れた発電手段となり得る高温ガス炉とこれによる水素製造技術の研究開発等については、今後とも技術概念や基盤技術の成熟度等を考慮しつつ長期的視野に立って必要な取組を決め、推進していくことが重要であると述べられている。
 これを受けて原子力機構では、高温ガス炉とこれによる水素製造技術の研究開発として、水素製造と発電の実現が可能な高温ガス炉技術基盤の確立を目指すとともに、高温の核熱利用を目指した地球温暖化ガスの発生を伴わない熱化学法による水素製造技術を開発することを中期計画に掲げて研究開発を推進している。
 平成3年から建設された高温工学試験研究炉(HTTR)では、平成16年4月に原子炉出口ヘリウム温度950℃を達成するとともに、平成19年5月に原子炉出口ヘリウム温度850℃で30日間連続運転を実施し、高温ガス炉燃料の優れた性能を確認した。熱化学法ISプロセスによる水素製造技術の開発については、ベンチスケール規模の実験装置により、毎時30リットル規模の水素を1週間にわたって連続製造することに成功し、その有効性を検証した。また、HTTRの開発実績や既存産業技術を組み合わせ、経済性に優れた商用高温ガス炉ガスタービン発電システム(GTHTR300)や、このGTHTR300に中間熱交換器を接続して放射性物質を含まないクリーンな2次ヘリウムガスを生産し、水素製造のための熱源として利用する水素電力併産高温ガス炉システム(GTHTR300C)の設計検討を進めている。下図はGTHTR300Cのプラント概念を示したものである。
 一方、東芝はHTTRの冷却系の主要機器である中間熱交換器等を受注・納入している。また、高温ガス炉を用いた水素製造システムの概念設計を行うなど、原子力機構と協力して高温ガス炉の開発に貢献している。




3. 世界の高温ガス炉開発状況
 高温ガス炉の開発は、日本以外にも、米国、南アフリカ、中国、韓国、ロシア、フランス等の世界各国で行われている。具体的な建設計画があるのは、米国、南アフリカ及び中国の3カ国である。米国エネルギー省(DOE)が提唱して構築された第4世代原子力システム国際フォーラム(GIF)では、超高温ガス炉(VHTR)を含めて6つの炉型について研究開発が提案されている。VHTRの国際共同研究には日、米、仏、カナダ、スイス、韓国および欧州連合が参加している。南アフリカ及び中国が参加手続き中である。




4. 世界の主な高温ガス炉実用化計画

(1)米国
 米国では、2005年に制定されたエネルギー政策法に基づき、電気水素併産の次世代原子力プラント「NGNP」の実用化計画を進めている。本プラントは2012年から建設を開始し、2018年に実証運転を開始する予定である。建設予定地はアイダホ国立研究所である。2007年度には、アレバ社、ウェスティングハウス社、ジェネラルアトミックス社の3社共同でNGNPプラントの予備概念設計を実施した。
 また、NGNPプラントに接続する水素製造技術に関しては、原子力水素イニシアティブにおいて、熱化学法(ISプロセス、ハイブリッド硫黄プロセス)、高温水蒸気電解の3プロセスの研究開発を米国の国立研究所を中心に進めており、2011年をめどに候補プロセスを決定する予定である。
 米国エネルギー省の研究開発予算の推移を下表に示す。




(2)南アフリカ
 南アフリカでは、PBMR社が発電用高温ガス炉実証炉PBMRの開発を進めており、2013年に運転開始の予定である。本プラントの熱出力は約400MW、原子炉出口冷却材温度は900℃で、ガスタービンを用いて発電を行う(電気出力165〜185MW)。
 建設予定地は、南アフリカ唯一の軽水型原子力発電所があるケープタウン近郊のKoeberg原子力発電所である。




(3)中国
 中国では、第10次経済計画(2001−2005)において、発電用高温ガス炉「HTR-PM」の実証炉の建設が認められ、2013年の運転開始に向けた技術開発が進められている。HTR-PMは蒸気タービン発電を採用し、熱出力250MW(冷却材温度750℃)、電気出力100MWのプラントを2基併設する。
 建設予定地は、山東省威海市栄成石島湾で中国華能集団公司、中国核工業建設集団公司および清華大学が設計・建設を担う。




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