用語解説
 
1.低エネルギー中性子(熱中性子、冷中性子)
 核分裂に伴って発生した中性子を減速材(軽水、重水)により平均秒速2.2kmまで減速させた中性子を熱中性子(波長は約1.8Å)と呼ぶ。この熱中性子を液体水素によりさらに平均秒速1km以下まで減速させた中性子を冷中性子(波長は約4Å以下)と呼ぶ。低エネルギー中性子とは熱中性子と冷中性子の総称である。


2.JRR-3
 JRR-3は低濃縮ウラン軽水減速冷却プール型原子炉であり、熱出力は20MWである。平成2年に多目的研究炉として改造され、照射実験、RI及びシリコン半導体製造、並びに中性子ビーム実験等に利用されている。特に、中性子ビーム実験に関しては、熱中性子及び冷中性子ビームを供給して34台にも及ぶ実験装置が稼動しており、日本国内の主要な研究施設となっている研究用原子炉である。


3.中性子導管
 中性子導管は下図にその構造を示すように、低エネルギー中性子を遠方まで輸送するため中性子鏡で長方形にかたどった中性子通路である。光通信ケーブルと同様に長距離の中性子の輸送に使用されている。




4.中性子ミラー
 鏡が光を反射するように、中性子を反射する鏡のことを中性子反射鏡と呼んでいる。平滑化したガラスの基板の上にマイクロメートル(μm)単位のニッケルなどの金属膜を成膜したものが一般的である。


5.J-PARC(Japan Proton Accelerator Research Complex)
 大強度陽子加速器施設の愛称。世界最高強度の陽子ビームを作り出す加速器施設。大強度加速器施設では、この陽子ビームを用いた原子核の核破砕反応で大強度のパルス中性子を発生させ、このパルス中性子ビームを用いた実験装置を使用して、物質・生命科学研究を強力に推進する。


6.特性波長
 中性子導管を用いて輸送された中性子ビームにおいて、強度が最高になる波長を特性波長という。JRR-3において、熱中性子導管での特性波長は1.3Åであり、冷中性子導管での特性波長は4Åである。


7.Ni/Ti多層膜スーパーミラー
 中性子ミラーの項で説明したニッケル単層膜の代わりに、ニッケルとチタンを交互に、かつ膜厚を増加させながら積層した多層膜を、平滑化したガラス基板の上に成膜した中性子反射鏡。全反射に加えて多層膜によるブラッグ反射を利用することで、ニッケル金属膜の中性子ミラーより臨界角度が大きくなるため、多くの中性子を反射することが出来る。


8.曲率半径
 曲率半径とは曲率の曲がり具合を表す量である。曲線を円の一部に近似したとき、その円の半径が曲率半径である。


9.スパッタリング成膜法
 基板上にニッケル、チタンなどの物質を積層するためのひとつの方法。スパッタリング法では、積層したい物質をプラズマ等で叩いてはねとばし、飛び出てきた物質を基板に付着させる。一般にスパッタリング法を用いた成膜は平滑な成膜面が出来る。


10.スパッタ装置、スパッタ
 スパッタリング成膜を行う装置。本件における中性子ミラーの開発及び製作には、イオンビームスパッタ装置を使用した。イオンビームを用いるスパッタリングでは、基板への付着力が強い点及び、高真空下で成膜できるので不純物が混ざらない点等の特徴がある。

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