用語説明


1)光速に近い速さで進行する「鏡(飛翔鏡)」
 文字通り、光速に近い速さで進む鏡である。近付いてくる救急車のサイレンの音が高く聞こえ、遠ざかるときには反対に低い音に聞こえるという音波に対するドップラー効果を、光でも起こそうとするもの。光の速さに近付くと、後述する相対性理論に従って計算される。通常の「止まっている鏡」は、光を反射した場合、その反射の角度は鏡の法線方向に対して入射軸と対称であり、光の周波数は入射光と同じである(図5 a)のとおり)。これに対し、アインシュタインは、「鏡が動いていて、光速に近くなった場合どうなるだろうか?」という問題を考察した。この相対論的鏡では、反射光の向きはほとんど、鏡の進む向きになる(図5 b)のとおり)(例えば、テニスのラケットを振らずにボールをあてると、ボールの反射角は入射角と同じであるが、ラケットを振る(=速度を上げる)と、ラケットを振る方向にボールが飛んでいくのと同じ原理。テニスボールの 場合、速度はせいぜい200km/h=56m/s程度なので、この程度の速さでラケットを振ればよいが、光の場合光速(300,000,000m/s)なので、この程度の速さを鏡に与えないとこの効果は顕著に現れない)。反射光の向きと鏡の進む向きが同じになると、鏡が進むことによって波の振動が詰められて周波数が高くなる「ドップラー効果」現象が起こる。





2)周波数
 光などの波動や振動するものが単位時間あたりに繰り返される回数。繰返しの周期の逆数である。周波数が高いほど振動が激しい。可視光の周波数は赤色より青色の方が高い(周期は短い)。


3)相対性理論
 アインシュタインが提唱した理論で、特殊相対性理論と一般相対性理論がある。ここでは、特殊相対性理論を指す。 物理法則は慣性系によらない、光の速度は不変という2つの仮定から導かれる理論。質量を持った物質は光速を超えられないこと、また、光の速度に近付くほど質量が大きくなり、加速されにくくなることが帰結される。


4)航跡波
 高強度・超短パルスレーザーパルスをプラズマ中に集光すると、ある条件を満たせば、ちょうど水面を進む船がそのあとに波を作るように、プラズマの波を起こすことができる。このプラズマの波を、船の航跡になぞらえてレーザー航跡波と呼ぶ。このレーザー航跡波は、実際にはプラズマ電子の疎密波である。これによって、あたかもサーフィンなどの波乗りのごとく、電子を高エネルギーまで加速することができる。


5)赤外光、紫外光
 人間の目で見える光(可視光)の波長範囲(400〜700nm)に対して、赤外光は、赤色の外(波長が長い、周波数が低い)の光で、紫外光は、紫色の外(波長が短い、周波数が高い)の光を指す。赤外光はおおよそ、700nmから1mmの波長の範囲で、紫外光は、10-400nmの波長の光を表わす。


6)アト秒という短パルス
 アトは、1018分の1、100京分の1という接辞語で、1アト秒は100京分の1秒である。1アト秒は、光ですらわずか0.3ナノメートルしか進むことができない、極短時間である。このようなパルスは、超短パルス光の高次高調波を用いた方法で、130アト秒が得られている。この時間スケールでは、原子中の電子を見たり、制御する新しい分野を切り拓くと期待されている。


7)波長可変
 一般にレーザー光の波長は原子に特有の波長に決まっており、自由に変えることはできない。この波長を自由に変えることができることを波長可変と呼び、応用上望ましい特性である。


8)集光強度
 レーザーなどの電磁波をレンズや凹面鏡で集光したときの単位面積当たりの仕事率(パワー)である。レーザープラズマの分野では、W/cm2 ワット毎平方センチメートルがよく使われている。ちなみに、地表面での太陽光の強度はおよそ0.1 W/cm2である。


9)陽電子
 電子と似た特徴(質量など)を持つが、電荷がプラスのもの。電子の反粒子である。陽電子は電子と反応して消滅し、数本のγ線に変わる(対消滅と呼ばれる)。陽電子およびこの対消滅を利用して、がんの発見用のPET(ポジトロン断層法)に使われている。


10)高強度レーザー
 本研究で使用したレーザーで、より正確には「極短パルス高強度レーザー」と呼ばれる。レーザー光の瞬間ピーク出力を高めるために、レーザー光のパルス幅を短くしたものである。典型的には、フェムト秒からピコ秒のパルス持続時間であるが、そのパルスのピーク出力値は、テラワット(テラは10の12乗=1兆を表わす)に達する。このピーク値が高いことを利用して、非熱加工や、超高速現象の観察、荷電粒子加速、イオン化など、幅広い分野で利用されている。
 レーザーの出力を上昇させていくと、レーザーを構成する光学素子に損傷を与えるしきい値により、その出力値は制限される。極短パルスレーザーは、主にチャープパルス増幅法によりこの制限を一部突破したものである。これは、一旦パルスを伸長した後に増幅を行い、増幅部での光学素子損傷を回避し、その後、パルス圧縮することで再び極短パルスを得るという方法である。これにより、高いピーク出力値を達成することができる。


11)プラズマ
 物質が電離し、イオンと電子に分離された状態。正負の荷電粒子から成り、それらが相互作用しながら集団的に運動している。自然界では、蛍光灯の内部やキセノンランプ、オーロラなどでも見られる。幅広い分野で応用、研究され、工業用では、プラズマを用いた微細加工、プラズマディスプレイなどに応用され、研究用途としては、核融合で研究されたりしている。


12)超高強度場
 超高強度レーザーを物質に照射すると、レーザーの極めて強い電界によって物質を電離させる(プラズマ化)ことができる。この電場をさらに高くしていくと、電子の運動が光の速さに近付くために、レーザーが作り出す高強度電場と物質の相互作用は、非線形的かつ相対論的(特殊相対性理論)になる。このような高い強度では、新しい現象や物理が起きると期待される。このようなレーザーによる高強度電場のもとでの物理現象を解明する新しい分野を超高強度場物理(科学)と呼ぶ。

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