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補足説明資料 |
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研究の背景 X線は、1895年にレントゲンが発見して以来、医療用診断、物質の構造解析など幅広く利用されている。このX線撮像においては、X線が物質によって吸収されることにより作られる濃淡(コントラスト)により画像を形成する「吸収コントラスト法」が主に使われてきた。しかし、X線吸収の少ない生体軟部組織や小動物、細胞などの像は濃淡がはっきりせず、これら生体の微細構造を見ることが困難であった。 そのため、物質による吸収ではなく、屈折による効果を用いる「位相コントラスト法」により、画像を取得する方法が考案された。これにより、例えばマンモグラフィーにおいて、乳房にできる腫瘍などが従来の吸収コントラスト法より見やすくなり、小さい腫瘍も発見できるようになってきている[1]。この方法を用いるには、X線の位相が良く揃っていることが必要で、従来は、X線管に工夫を凝らした装置[2]や、大型の電子加速器からのシンクロトロン放射光[3]、レーザープラズマX線源[4]などが使われてきた。X線管、レーザープラズマX線源は小型だが輝度が低く、シンクロトロン放射光は輝度は高いが装置が巨大であるという、一長一短があり、新たなX線源の開発が待たれていた。 研究の内容と意義 今回、原子力機構の研究グループは、レーザープラズマX線において、照射条件を工夫することにより、新しいX線発生装置を開発した。図1に示す装置により、ピーク出力2テラワット(テラは10の12乗=1兆を表わす)、パルス幅70フェムト秒(フェムトは10の15乗分の1=1千兆分の1を表わす)のチタンサファイアレーザー光を、アルゴンガス中に集光させた。その際、@レーザー光のプリパルスを低減させ、Aガスを照射するレーザー光の位置の調整を行なった。その結果、図2に示すように、不要なX線の少ない、高コントラストのX線を得ることに成功した。これにより、試料や生体に対して不要なX線照射を減らすことができ、同時に、鮮明な画像が得ることが可能になった。さらに、このX線の輝度は、1020 photons/s/mm2/mrad2であり、これはシンクロトロン放射に匹敵する高い輝度であった。また、このX線は、100フェムト秒程度のパルス幅と期待されるので、極めて高速な現象をとらえることができる。 この種の高ピーク出力レーザー光には、プリパルスと呼ばれる主パルスに先行する不要な付随パルスが含まれていた。このプリパルスは、ピーク出力の高い主パルスとガスとの相互作用を低減させるため、X線の発生効率を下げる要因であった。今回、レーザーシステムの調整により、プリパルスを主パルスに対して百万分の一以下の強度にまで低減することでX線の発生効率が高くなり、高輝度のX線が得られたと考えられる。さらに、ガスに照射するレーザー光の集光位置を調整することにより、X線のコントラストを低下させる高エネルギーの電子発生を抑制することが出来た。 このX線源を用いて、蜘蛛の吸収コントラスト像と位相コントラスト像を取得した(図3)。吸収コントラスト法では見えない微細な構造を、位相コントラスト法では明瞭にみることができる。これにより、本光源は位相コントラスト法に適した光源であることを示した。 成果の波及 本装置は、位相が揃い、出力が高く、不要なバックグラウンドの少ないX線を生成する、新たな小型X線発生装置と位置付けられる。特に、位相コントラスト法によるCT(X線立体撮影法)に適用すると、従来のCTよりも細かい構造が見えること、患者への不要なX線照射を少なくできることなどから、新たな医療診断法になると期待できる。 参考文献等
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