<補足説明 資料2>
 
【背景とねらい】
 オステオスペルマムはキク科の多年草で鉢花や花壇材料として人気があり、群馬県内の生産は約30万鉢/年で増加傾向にあります。農業技術センター地域研究員も務める関口政行氏は、同氏が育成した品種が全世界のオステオスペルマム生産量の約50%を占めており、また、品種「リップシンフォニー」は、10年に1度開催される国際園芸博覧会(フロリアード2002)において金賞を受賞するなど、世界的なオステオスペルマムの育種家として知られています。なお、新品種「ヴィエントフラミンゴ(仮称)」は、「リップシンフォニー」と同じシンフォニーシリーズの「マザーシンフォニー(同銀賞受賞)から育成したものです。
 オステオスペルマムの生産現場では、今までにない新しい花色の開発が求められていましたが、交配育種や枝変わりなどの従来法では作出が困難でした。そこで、関口氏が育成した品種を材料に、農業技術センターの組織培養技術と原子力機構のイオンビーム照射技術を活用することによって、新品種の開発に取り組みました。


【イオンビーム育種技術】
 我が国が世界を先導する量子ビームテクノロジーの1つ、「イオンビーム育種技術」とは、サイクロトロンなどの大型の加速器で光の速度の数十%まで加速させたイオン粒子を植物の種子や葉にあてて、有用な形質の品種を育成する方法です。イオンビームは、遺伝子の限られた場所だけに大きなエネルギーを与えるため、原品種の良い特性を保持しながら、目的の形質だけをワンポイントで改変できることや、交雑育種では得られにくい新しい形質を作り出せることが特徴です。これまでに、キク、カーネーションなどの新品種がイオンビーム育種によって作出されています。
 今回、農業技術センターで調整したオステオスペルマムの培養葉片に対して原子力機構高崎量子応用研究所のイオン照射研究施設(TIARA)で発生させた炭素イオンを照射することにより、これまでに無いパステルカラーの花色を作り出すことに成功しました。


【組織培養技術】
 植物の葉などの組織は、適切な栄養培地上で無菌的に培養することができます。組織培養により、個々の細胞から植物体を再生することができるため、安定した植物の増殖やウイルスフリー苗の作出などに広く用いられている技術です。
 イオンビームを照射した葉片の培養を続けることにより、約1ヶ月で植物体を再生させることができます。これらの個体を温室で育成し、約1年間という短期間で優良個体を選抜することができました。培養組織にイオンビームを照射し、個々の細胞から植物体を再生させられるため、形質の安定した品種を得ることができるのが特徴です。


【新品種の特徴】
 今回開発に成功した新品種「ヴィエントフラミンゴ(仮称)」は、パステル調の花弁にピンクのストライプが入るという、これまでに無い花色を持っています。また、親品種である「マザーシンフォニー」の優れた特性を受け継いでいますので、病虫害に強い上に開花期間が長く、冬から初夏まで花が楽しめます。


【成果の意義及び今後の展開】
 今回の成果は、農業技術センター及び同センター地域研究員の関口政行氏、ならびに原子力機構の3者による地域に根ざした連携により結実したものです。
 これまでオステオスペルマムでは、交配や枝変わりによって新しい品種が作られてきましたが、作出できる花色のバラエティに限界がありました。今回の成果は、オステオスペルマムの花色をさらに拡大できることを示し、以前から要望されている完全な純白品種やわい性品種(草丈が低い性質)の開発も今後期待されます。新品種は、平成19年度中に農業技術センターから群馬県内生産者に親株を配布する予定です。


【地域研究員】
 群馬県の農業関係試験研究機関では、県内で優れた技術や知識を有する生産者を地域研究員として委嘱し、協働で新品種や新技術の開発ならびに現地実証試験などを実施しています。農業技術センターでは、平成15年度から18年度に9人(野菜4人、花き4人、果樹1人)の地域研究員を委嘱しています。

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