平成19年2月7日
独立行政法人日本原子力研究開発機構
 
国際共同実験(MEGAPIE)によりメガワットクラスの
液体鉛ビスマス核破砕ターゲットの運転に成功(お知らせ)
−長寿命放射性核種の短寿命核種への核変換の実現に大きく前進−

 
 独立行政法人日本原子力研究開発機構(理事長 岡撫r雄)(以下、「原子力機構」と言う)は、原子力機構が参加する国際共同実験 MEGAPIE(MEGAwatt PIlot Experiment)*により、スイスのポール・シェラー研究所(PSI)において、世界で初めて液体鉛ビスマスを用いたメガワットクラスの核破砕ターゲット1)の運転に成功しました。

*MEGAPIEは、液体鉛ビスマスを用いたメガワットクラスの核破砕ターゲットを設計、製作し、スイスPSIにおいて安全な運転を実証する国際共同実験。実験の目的やスケジュールについては(補足資料1)を参照。

 長寿命マイナーアクチニド2)(ネプツニウム、アメリシウム及びキュリウム)は高レベル放射性廃棄物の地層処分において数万年後になっても影響を残す主要な長寿命放射性元素です。これらの放射性元素を短寿命核種あるいは安定核種に核変換する方法に、高強度の陽子ビームで駆動する加速器駆動未臨界システム(ADS)3)があります。このシステムには、大強度の中性子を作り出すことができる液体重金属(鉛ビスマス)を用いた強力中性子源4)の開発が不可欠になります。

 このため、2000年より、ヨーロッパ(CEA、CNRS、ENEA、FZK、PSI、SCK・CEN)、日本(JAEA)、韓国(KAERI)、米国(DOE)の9つの機関5)による国際協力により、スイスPSIの核破砕中性子源SINQ(補足資料2)を用いて、1MWのビーム強度を持つ鉛ビスマスの液体ターゲットの開発試験計画が開始されました。MEGAPIEと名付けられたこの国際共同実験は、高強度核破砕ターゲットの実現性を実際条件下での長時間運転によって実証するという目標を持っています。

 2000年及び2001年にこのような実験の基礎について集中的な研究を行い、その後、ターゲットと補助系が、フランス、イタリア、ラトビア、スイスで設計、製作されました。MEGAPIEターゲットの材料は920kgの液体鉛ビスマスであり、鋼製の容器に入れられています(補足資料3)。入射陽子ビームは材料に約580kWの熱を与え、ビームの入射する窓材は、熱交換器を通して強制循環する液体鉛ビスマスによって冷却されます。鉛ビスマスに入射した陽子ビームは、核破砕反応により、1017個/秒の中性子を発生します。SINQは、575MeVで1.4mAまでの連続陽子ビームを供給するサイクロトロン加速器6)に接続しており、開発と並行して、安全上の許可がスイス公共衛生局の指導でスイス安全所管官庁によって与えられました。

 照射に先立って、全てのシステム、特に制御と安全系に関するシステムをビームなしで集中的に試験した後、定格強度レベルでのターゲットの通常運転を、昨年8月21日に開始し計画どおり12月21日まで続けられました。その結果、MEGAPIEターゲットは運転効率95%を達成し、中性子生成率は、計算どおり従来の固体鉛ターゲットの1.4倍という高い値を示しました。

 ビームの停止後、ターゲット中の鉛ビスマスは凝固され、施設から取り出された後、約1年半貯蔵されます。その後ターゲットを解体し、内部の構成機器及び構造材料の健全性を調べる計画です。

 原子力機構では、マイナーアクチニド等の長寿命放射性核種を核変換することを目的に、ADSの研究開発を推進していますが、今回のMEGAPIE実験の成功は、ADSに固有で重要な核破砕ターゲットの開発技術において、大きな進歩をもたらすものです。
 また、大強度陽子加速器施設計画評価専門部会(原子力委員会と学術審議会の合同で設置:平成12年8月)等において、原子力機構がJ-PARC7)第2期計画として提案してきた核変換実験施設の実現に向け、技術面において有益な成果です。今回のターゲット照射の結果は満足のいくものであり、今後、照射した試験材料について行う研究結果と合わせて、ADSの研究開発に重要な知見を与えるものです。これらの研究成果より、高レベル放射性廃棄物中の長寿命マイナーアクチニドの核変換を可能にする能力を持つ将来の実用ADSシステムの開発に道を開くことが期待されます。


  補足資料:
      1.MEGAPIE(Megawatt Pilot Experiment)の目的及びスケジュール
      2.PSIの加速器と核破砕中性子源
      3.MEGAPIEターゲット
      4.用語説明
以 上

参考部門・拠点:量子ビーム応用研究部門J−PARCセンター


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