用語解説
 
1)臨界プラズマ試験装置JT-60
 日本原子力研究開発機構で稼働している世界最大級のトカマク装置(主半径R=3.4m、小半径a=1.0m、トロイダル磁場Bt=4.0T、プラズマ電流Ip=3.0MA)である。米国のTFTR(1997年に運転終了)、欧州のJET装置と併せて3大トカマクといわれている。


2)ITER(国際熱核融合実験炉)
 制御された核燃焼プラズマの維持と長時間燃焼によって核融合の科学的・技術的実現性を実証することを目指したトカマク型の核融合実験炉(主半径R=6.2m、小半径a=2.0m、トロイダル磁場Bt=5.3T、プラズマ電流Ip=15MA)。建設予定地はフランスのカダラッシュ。1992年から日本・米国・欧州・ロシアの国際協力として推進され、9年間の工学設計及び、主要機器の技術開発を行った。2006年11月には、先の4極に中国・韓国・インドを加えた7極の間で、「ITER事業共同実施のためのITER国際核融合エネルギー機構を設立する協定」などについて署名が行われた。


3)ITER標準運転
 ITERでは、核融合反応によって生じるパワー(核融合出力)が外部からの加熱パワーの10倍以上となる状態を長時間(約400秒)維持することを主要な技術目標としている。この目標達成のための運転を、ITERでは標準運転と呼ぶ。ITERの標準運転は、これまでの世界中の実験データを基に、従来得られている知見で十分達成可能な領域に設定されている。


4)プラズマの圧力(補足説明1を参照)
 プラズマの圧力は、通常の気体の圧力と同様に、その密度と温度の積に比例する。単位体積あたりの核融合出力は、プラズマの圧力の二乗に比例するため、高い核融合出力を得るには、プラズマの圧力を高くする必要がある。また、装置の規模に因らない量として、プラズマを閉じ込めている磁場の強さやプラズマ電流に対するプラズマの圧力の大きさを用い、「規格化プラズマ圧力」と呼ぶ。ITERの標準運転では規格化プラズマ圧力=1.8を想定している。


5)プラズマの回転(補足資料2を参照)
 トカマクプラズマは真空容器の中に作られるが、真空容器には触れずに磁場のかごによりドーナツ状に宙に浮いたように閉じ込められている。そのため、外部から力を加えることにより、水に浮いた浮き輪を回すように回転させることが出来る。


6)プラズマが変形する現象(補足説明2を参照)
 ITERや核融合炉では、大きい核融合出力が得られるため出来るだけ高い圧力での運転を目指すが、その一方でプラズマ圧力が高くなるとプラズマが変形し高圧力状態を維持出来なくなってしまう。プラズマの制御技術によりこのプラズマの変形を起こさないようにして圧力を高めることは炉心プラズマ研究の大きな目的の一つである。


7)中性粒子ビーム入射
 プラズマの圧力を高めるには、外部からプラズマを加熱する必要がある。その方法の一つとして、高エネルギーの中性粒子ビームをプラズマへ入射する方法があり、JT-60の主要な加熱方式となっている。高エネルギーの中性粒子ビームは、イオンを電場で加速したのちに中性化することで得られる。入射された中性粒子は、プラズマ中でイオンと電子に分かれ、生成した高速イオンがプラズマ中を回りながらプラズマにエネルギー(熱)を与えて、プラズマを加熱する。また、高速の中性粒子は同時にプラズマを「押す」ことになり、プラズマに回転を与える。


8)ITERや核融合炉におけるプラズマ回転の大きさ
 現在の実験装置のプラズマは外部からの加熱パワーで維持されている。一方、ITERや核融合炉のプラズマは、自身の核融合反応で加熱されるため外部からの加熱パワーは小さく、プラズマ電流の維持などに必要な量のみである。中性粒子ビームでプラズマ電流を流す力は、入射パワーが同じ場合には中性粒子の速度が速くなるほど大きくなるが、これとは逆にプラズマを押す力は小さくなる性質がある。ITERや核融合炉では効率よくプラズマ電流を流すため、現在の実験装置よりも速度の速い中性粒子ビームを用いることを考えているため相対的に押す力は小さくなり、プラズマの回転はJT-60等現在の実験装置におけるものよりも遅くなる。逆に十分な回転を得るためには大きな中性粒子ビーム・パワーを必要とし、核融合炉では運転効率の低下(電気代の上昇)につながる。


9)一昨年行った閉じ込め磁場形状の改良(補足説明3を参照)
 JT-60では、プラズマを閉じ込める磁場の強さを一定にするため、強磁性体であるフェライト鋼を真空容器内に装着した(2006年5月プレス発表)。これにより、高速イオンの損失を低減し中性粒子ビームによる加熱効率を改善、プラズマの変形が顕著になるところまで規格化プラズマ圧力を高めることが出来、今回の成果につながった。

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