補足説明

1.プラズマの圧力と規格化プラズマ圧力
 プラズマの圧力は、通常の気体の圧力と同様に、その密度と温度の積に比例する。単位体積あたりの核融合出力は、プラズマの圧力の二乗に比例するため、高い核融合出力を得るには、プラズマの圧力を高くする必要がある。
 トカマクでは、磁場のかごを作ってプラズマを閉じ込めている。この磁場の強さやプラズマ電流に対するプラズマの圧力の大きさを「規格化プラズマ圧力」と言う。
 ITERや核融合炉では、規格化プラズマ圧力が高いほど、大きい核融合出力が得られる(図1-1)が、その一方で、規格化プラズマ圧力が高くなると、プラズマが変形し、高規格化プラズマ圧力状態を維持出来なくなってしまう(図1-2)。プラズマの制御技術によりこのプラズマの変形を起こさないようにして規格化プラズマ圧力を高めることは炉心プラズマ研究の大きな目的の一つである。








2.プラズマの回転とプラズマの変形の抑制
 トカマクプラズマは真空容器の中に作られるが、真空容器には触れずに前述のように磁場のかごによりドーナツ状に宙に浮いたように閉じ込められている。そのため、外部から力を加えることにより、水に浮いた浮き輪を回すように回転させることが出来る(図2-1)。核融合プラズマの重さは空気の三百万分の一程度と非常に軽いため、その回転は非常に速く、秒速100キロメートルにも達する。中性粒子ビームは、文字通り高速の(JT-60の場合、秒速3,000キロメートル)中性粒子を連続的にプラズマに入射するため、プラズマを「押す」ことになり、これによりプラズマを回転させることが出来る。ただし、ITERや核融合炉等では相対的にビームの押す力が小さくなるために、回転は遅くなる。
 プラズマを導体(今の場合真空容器の内壁)の中で回転させると、前述のプラズマの高圧力化に伴う変形を抑制出来ることが理論的に予測されている(図2-2、3)。上に示したように、ITERや核融合炉で回転が遅くなることを考えると、この変形の抑制に必要な最小限の回転速度を知ることは、プラズマの高規格化プラズマ圧力化にとって重要な課題であった。これまで、他装置においてこの最小限の回転速度を調べる実験が行われてきたが、中性粒子ビームが一方向にしか入射出来ないため、ITERや核融合炉に近い理想的な状態での評価が困難であった。このような状況でのこれまでの結果では、プラズマの高圧力化に伴う変形の抑制に必要な最小限の回転速度はITERで想定される回転よりも速く、ITERでは回転による抑制は困難であろうという予測がなされていた。
 JT-60には入射方向の異なる複数の中性粒子ビームが備えられている(図2-4)。今回これを駆使することにより、プラズマの回転を制御しつつ十分な加熱をおこなった。その結果、プラズマの高圧力化に伴う変形を抑制するのに必要な回転速度は、従来の実験で予測された値の15%に過ぎないことが判った。これは、ITERで予測される小さな回転速度でも、変形の抑制が十分期待出来ることを示すものである(図2-5、6)。
 なお、これまでのJT-60における実験成果等を受けてプラズマ回転制御の重要性が広く認識され、アメリカの中型トカマク装置DIII-Dでは、一昨年から昨年にかけて中性粒子ビームの一部の向きを変えてJT-60と同様の回転速度が小さい実験ができるように改造を行った。昨年、JT-60に続いて同様の実験を行い、JT-60と同程度の小さい回転速度で変形を抑制できることを観測した。両装置のこれらの成果は、物理学分野で世界的に権威の高いPhysical Review Letters誌(米国物理学会)に同時掲載される予定である。
















3.磁性体を用いた閉じ込め磁場形状の改良
 今回の成果に大きく貢献したのは、磁性体を用いた閉じ込め磁場形状の改良である。
 トカマク装置では、ドーナツ状に並べたコイル(トロイダル磁場コイル)で強い磁場(トロイダル磁場)を発生させてプラズマを閉じ込める。プラズマを構成する荷電粒子(イオンや電子)は、らせん状の磁力線に沿ってドーナツの周方向にぐるぐる回ることによって閉じ込められる(図3-1(a))。
 トロイダル磁場は、コイルの真下で強く、その間で弱くなる。その強弱の度合いを「磁場リップル」と言う。中性粒子ビームの入射などで生成される高速イオンの一部は、磁場の強い場所で跳ね返されドーナツの周方向に回ることが出来ない。このような粒子は、コイルの間を往復しながら磁場に対して垂直方向に逃げて行く。これをリップル損失と言い、プラズマ加熱効率の低下をもたらす(図3-1(b)、図3-2(a))。
 強磁性体であるフェライト鋼をコイルの下に置くと、フェライト鋼はコイルの下の磁場を弱め、コイルの間の磁場を強めるような磁場を生成する(図3-2(b) )。その結果、磁場の強弱がなくなり、高速イオンはドーナツの周方向にぐるぐる回るようになり、良好に閉じ込められる。(図3-2(c))。
 JT-60では、フェライト鋼装着によりリップル損失の低減に成功。これにより加熱効率を改善し、プラズマの変形が顕著になるところまで規格化プラズマ圧力を高めることが出来、今回の成果につながった。





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