平成18年12月22日
独立行政法人日本原子力研究開発機構
 
宇宙に強誘電体の氷が存在することを世界で初めて提唱
−地上の原子炉で宇宙の氷の謎に迫る−

 
 独立行政法人日本原子力研究開発機構(理事長 殿塚猷一、以下「原子力機構」という)量子ビーム応用研究部門 中性子物質科学研究ユニット 新エネルギー材料研究グループの深澤裕研究員は、研究用原子炉施設にて実施した氷結晶の中性子回折実験により、宇宙に強誘電体の氷が存在することを世界で初めて提唱しました。

 今回、原子力機構が原子力科学研究所(茨城県東海村)の研究炉JRR-3と、オークリッジ国立研究所(米国テネシー州)の原子炉HFIRに設置した中性子回折装置を用いて、天王星、海王星、冥王星等と同じ温度条件下(約−200℃)で、氷結晶中の水分子(H2O)の水素(H)が自発的に揃う様子を初めて観測しました。水分子の水素は正の電荷を帯びているので、これが揃うと氷自体が正負に分極して強誘電体になります。従って、本実験は太陽系に強誘電体の氷が存在することを示唆します。

 これまで、数千万年程度の短い時間で惑星が誕生することは大きな謎となっていました。今回提唱した強誘電体の氷の存在はこの謎を解く新しい鍵になります。宇宙に塵として存在する強誘電体の氷は重力に加えて電気的な力を持ちます。電気的な力は重力よりも遥かに強いので塵に強い力が作用します。この結果、塵から惑星が短い時間で形成されたのかもしれないと考えています。

 また、宇宙の至る所に氷が存在することは判明していたものの、それが強誘電体である可能性を検討して、天文学上の議論に載ることはありませんでした。今回、水素の観測に最適な中性子を用いて可能になった実験により、惑星形成や生命起源の謎を解き明かす鍵である宇宙の氷、その氷が強誘電体であるという概念を、世界で初めて論文誌上(米国天文学学会学会誌「アストロフィジカル・ジャーナル」、Vol. 652 L57-L60:平成18年11月24日発行)に発表致しました。

 さらに、私たちは中性子を使って強誘電体の氷特有の振動が、波長13μm及び17μmにあることも突き止めています。今後、冥王星等の天体からの赤外線をより詳しく観測することで、本提唱の実証が可能になると考えています。


 ・宇宙に強誘電体の氷が存在することを世界で初めて提唱 −地上の原子炉で宇宙の氷の謎に迫る−
 ・補足説明
 ・用語解説
以 上

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