補足説明


研究の背景と経緯
 原子力機構では、地層処分技術に関する研究開発の一環として、隆起や侵食、気候・海水準変動等により誘引される長期的な地形変化の予測技術開発及び地形変化が地下水等の地質環境に及ぼす影響評価の研究に取り組んでいる。本研究は、日本列島の内陸域における過去の気候変動の高精度な復元手法の開発として行われたものである。


研究の内容
 過去約数十万年間の気候変動は、氷期−間氷期の繰り返しによって特徴づけられる。この気候変動は、汎地球規模での発生事象が、海洋底の地層中のδ18O(酸素同位体比)1)の変化から解明されている。日本列島周辺では、日本海の海底堆積物の研究から、過去数十万年間の気候変動が復元されている。しかし、日本列島の内陸部においては、湖沼堆積物等から過去数万年間の気候変動の復元研究は多数行われているが、過去数十万年間の気候変動を連続的に解明した研究例はこれまで皆無に近かった。
 原子力機構では、岐阜県瑞浪市大湫(おおくて)の小盆地においてボーリングの掘削を行い、連続的な堆積物の試料を採取し、堆積物中の花粉の種類とその構成比を調査することで、過去約30万年間にわたる気候(気温・降水量)変動を復元した。過去の気候を数十万年間にわたって欠落無く復元するためには、その期間全体にわたって、細粒堆積物(泥や砂等)が堆積し続けるような静かな環境が必要であるが、地殻変動が激しく降水量も多い日本列島では河川の侵食作用が活発であり、そのような環境の地域は非常に稀である。大湫盆地は丘陵地の山頂付近に位置し、盆地に流れ込む河川がほとんど無く、集水域が盆地の面積に比して非常に狭いという特異な地形を持っている。そこに着目してボーリング掘削を行ったところ、約30万年間にわたって細粒堆積物がほぼ切れ目なく堆積しており、過去の気候変動の特徴を復元し、汎世界的な特徴との整合性の確認に最適な場所であることが分かった。
 掘削したボーリングコアから30cmごとに試料を採取し、その試料に含まれる花粉の構成比の変化から、モダンアナログ法2)を用いて、過去の降水量や気温の変化を復元した。ボーリングコアの写真と地質柱状図及びボーリングコア中の花粉の構成比から推定された過去の降水量変化を図1に、コア中から採取された主要な花粉の構成比の変化と推定された古気温の変化を図2に示す。地層が堆積した年代は、地層中に含まれる火山灰の年代(年代が既知のもの)から決定することができる。大湫盆地で復元された過去の気温の変化は、深海底コアのδ18Oの変化と概ね一致しており(図2)、この地域の過去の気温変化は、世界的な気温変化と概ね対応していることが明らかになった。
 ここで用いている花粉は主に木本の花粉であり、草本の花粉に比べて広域的な植生を反映しているので、大湫盆地のみでなく岐阜県東濃地域といった比較的広域的な地域の気候変動を記録していると考えられる。気温変化を詳細に見ると、今回推定した5万年前頃の大湫盆地の気温の変化は、世界的な変動パターンと比べると変化が大きいという結果も得られた。この違いは、この地域に特有な気温の変化を示している可能性がある。
 花粉分析から推定された過去の降水量については、氷期(寒冷期)に少なく間氷期(温暖期)に多いという傾向が認められるものの、δ18O変化との対応関係は明瞭ではない。降水量の変化は、世界的な気候変動のみならず、対馬海峡の陸化によって暖流が日本海に流れなくなることによる降水量の減少等、局地的な要因によっても引き起こされると考えられているが、その変化の要因の特定は今後の研究課題である。








今後の予定
 今後は、本研究で得られた気候変動が地形変化過程に及ぼす影響を解明するために、東濃地域を事例として、過去の地形とその変化過程の復元調査を行う予定である。

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