補足説明
 
1.研究の背景と経緯
 宇宙空間には、太陽起源や銀河起源の様々な宇宙線が存在します。そのほとんどは、地磁気により曲げられ地球には到達できませんが、極めてエネルギーの高い宇宙線は、地磁気圏を通り抜けて大気上空に到達します。宇宙線が大気に入射すると、大気中の原子核と複雑な核反応を起こし、大量の2次放射線を発生します(補足説明1)。この2次放射線の中で、特に透過性が高い中性子は、航空機乗務員の放射線被ばくや半導体ソフトエラーを誘発する主な原因となります。そのため、大気中における宇宙線由来の中性子スペクトルを予測することは、近年、重要な研究課題として認識されるようになりました。しかし、これまでの予測モデルは、宇宙線が引き起こす大気中の窒素や酸素との核反応を計算するモデルの精度が不十分なため、地表面から航空機高度まで幅広い高度範囲における測定値を再現することが困難でした。

2.研究の内容
 今回、佐藤研究員は、原子力機構が中心となって開発した最新の核反応モデルを組み込んだ放射線輸送計算コード5) PHITSと最新の核データライブラリ6) JENDL高エネルギーファイルを組み合わせた大気中における宇宙線挙動シミュレーション手法を確立し(補足資料2)、任意の地点における中性子スペクトルを精度良く計算することに成功しました(補足説明3)。また、シミュレーション結果を詳細に検討して、高度・地磁気強度・太陽活動周期・周辺環境をパラメータとし、詳細シミュレーションとほぼ同じ精度で中性子スペクトルが評価できる簡易計算式を導出しました(補足説明4)。そして簡易計算式に基づき、大気中の任意地点における中性子スペクトルを瞬時に計算するプログラムEXPACS(補足説明5)を開発し、以下のホームページ上から広く利用に供することとしました。
 http://www3.tokai-sc.jaea.go.jp/rphpwww/radiation-protection/expacs/expacs.html

3.成果の波及効果
 今回の成果は、航空機乗務員の被ばく線量、地上における半導体ソフトエラー発生率、地域ごとの中性子線量の評価など、今後、様々な目的に応用できると期待されます。
以 上

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