解 説

革新的原子力システム技術開発公募事業
 原子炉や核燃料サイクル施設の規模や方式にとらわれない多様なアイデアの活用に留意しつつ、大学、研究機関、企業等の連携を重視した競争的な技術開発を実施するための文部科学省の公募型研究制度。原子力の基盤的研究における産学官の連携の強化や革新的原子炉技術開発にブレークスルーをもたらす基盤的要素技術の涵養を図ることを目的としている。
 高温工学試験研究炉(HTTR)を用いた高温ガス炉の安全性実証試験は、平成14年度から18年度の5ヵ年計画で、東京理科大学、九州大学らとともに、採択課題「高温ガス炉固有の安全性の定量的実証」の技術開発の一環として実施している。


高温工学試験研究炉(HTTR)
 我国初の黒鉛減速ヘリウムガス冷却型原子炉で、熱出力30MW、原子炉出口ガス最高温度は950℃である。平成10年11月10日に初臨界、平成13年12月7日に熱出力30MW及び原子炉出口ガス温度850℃、平成16年4月19日に原子炉出口ガス温度950℃を達成した。平成14年度に定常運転を開始し、安全性実証試験等を実施している。


高温ガス炉の特長
 高温ガス炉は、@冷却材には化学的に不活性なヘリウムガスを用いているため、冷却材が燃料や構造材と化学反応を起こさないこと、A燃料被覆材にセラミックスを用いているため、燃料が1600℃の高温に耐え、核分裂生成物の保持能力に優れていること、B出力密度が低く(軽水炉に比べ1桁程度低い)、炉心に多量の黒鉛等を用いているため、万一の事故に際しても炉心温度の変化が緩やかで、燃料の健全性が損なわれる温度に至らないこと等の固有の特性による安全性(高温ガス炉固有の安全性)に優れた原子炉である。また、900℃を超える高温の熱を原子炉から取り出せることから、熱効率に優れるとともに、水素製造等の発電以外での利用など原子力の利用分野の拡大に役立つ原子炉である。




安全性実証試験
 原子炉で発生する異常状態の代表的なものとして、原子炉出力を制御している制御棒の異常な引き抜き等による原子炉出力の急激な上昇(反応度の投入)、また、炉心の冷却材流量の低下等による炉心の温度上昇(冷却能力の喪失)が挙げられる。安全性実証試験は、これら異常時における高温ガス炉固有の安全性を実証するために行う。
 これまで、文部科学省からの受託事業として、反応度投入を模擬した制御棒引き抜き試験と冷却能力の喪失を模擬した原子炉冷却材の流量を低下(最大、定格時の1/3まで低下)させる試験を実施してきており、平成18年度に終了する予定である。
 原子力機構では、平成19年度以降も、世界を先導する高温ガス炉技術の高度化研究を推進するため、より厳しい条件下の試験として、冷却能力の喪失を模擬した原子炉冷却材の流量喪失試験、さらに原子炉の崩壊熱除去のための炉容器冷却設備も同時に停止させる新たな試験を行う。


原子炉冷却材の流量喪失試験(循環機3台停止試験)
 図1に示すように、1次加圧水冷却設備を使用して原子炉を安定に運転した状態から、1次加圧水冷却器の循環機3台全てを停止して、炉心を冷却しているヘリウムガス(1次冷却材)の流量を喪失させる。本試験により、炉心を強制冷却する機能が喪失されても、原子炉出力が低下し安定な状態に落ち着くことを実証する。
 100%出力(30MW)運転からの循環機3台停止試験の原子炉の挙動を図2に示す。1次冷却材の流量が喪失することにより、原子炉出力は、図2に示すように低下している。これは、1次冷却材の流量が喪失した場合、燃料体を構成する燃料(二酸化ウラン燃料)の温度上昇に伴う負の温度効果(燃料の温度が上昇すると、核分裂を殆ど生じない238Uの中性子吸収が増えることで、核分裂反応がおさえられる効果)、高温ガス炉燃料特有の燃料に含まれている黒鉛の温度上昇に伴う負の温度効果等が働くことで、出力が低下することによる。試験開始直後、燃料最高温度は約1475℃まで上昇するが、通常運転時の制限である主要な熱的制限値(1495℃)を満足する。また、1次冷却材の流量が喪失することで、炉心から原子炉圧力容器への熱移動量が増加するが、原子炉圧力容器の最高温度の上昇も僅かである。






原子炉冷却材の流量喪失に加えて炉容器冷却設備を停止させる試験
 高温ガス炉における冷却材喪失事故のように、ヘリウムガスの強制循環による炉心の冷却が期待できない事故の場合は、炉心の残留熱は原子炉圧力容器表面からのふく射、自然対流により放散される。HTTRではこの熱を炉容器冷却設備により除去しているが、本試験を実施することにより、残留熱除去系がなくても周囲の構造物に熱が逃げて炉心を安全に冷却できることを実証する。


第4世代原子力システム
 第4世代原子力システムは、米国において提唱されたもので、第1世代(初期の原型炉的な炉)、第2世代(PWR、BWR、CANDU炉等)及び第3世代(ABWR、AP600等)に続く原子力システムであり、2020〜2030年頃の実用化を念頭においている。本原子力システムが具備すべき要件として、持続可能性(燃料の効率的利用、廃棄物の最小化と管理、核不拡散抵抗性)、安全性/信頼性(安全/信頼できる運転、敷地外緊急時対応の不要)、経済性(ライフサイクルコストの優位性)が提示されている。


超高温ガス炉(VHTR)
 超高温ガス炉は、900℃以上の原子炉出口温度で運転できる高温ガス炉で、第4世代の原子炉概念の一つとして採用されている。高効率発電とともに熱化学水素製造などの高温プロセス利用が可能である。我が国は上述のHTTRの建設・運転をベースとして研究開発の推進を主導している。また、米国やフランスも再び高温ガス炉技術の開発を進めている。

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