補足解説資料


 フッ素樹脂は、その潤滑性を利用したシーリング材、耐熱性・非粘着性を利用した調理器具のコーティング材、耐候性・防汚性を活かした建物外装保護材など様々な分野で利用されています。これに加え、フッ素樹脂は他の材料に比べて誘電率が低いなどの良好な電気的特性を持つことから、伝送損失の少ないアンテナ材として注目されています。
 しかし、フッ素樹脂基板は疎水性であるため、銅箔などの導体との接着強度が弱いという問題があり、従来は導体表面を荒らして用いていました。すなわち、サンドブラストなどで導体表面を荒らして凹凸をつけ、これをフッ素樹脂基板に貼り付けることにより接着力を強化していました。しかし、この方法では、表面の凹凸が影響して伝送線路の電力損失が増加します。電力損失は電波の周波数が高いほど大きくなる傾向があるので、アンテナ応用面では、周波数の低い電波を使う小型船舶用レーダなどに利用が限られていました。世の中のニーズが高い携帯電話や衛星通信など、ミリ波を用いる高周波通信分野に応用を拡大するためには、アンテナ周辺部に増幅器を追加して電力損失を補う必要があり、コスト的にも高価なシステムになります。そこでフッ素樹脂基板と導体との接着力強化に応用したのが、原子力機構が保有する放射線グラフト重合技術です。原子力機構では、電子加速器やコバルト60ガンマ線照射施設を用いて材料の特性に損傷を与えずに様々な機能を付与することが可能な放射線グラフト重合技術の研究開発を長年進めてきており、高い技術と実績を有しています。今回、この技術を適用して疎水性のフッ素樹脂基板に親水性基を導入し、基板の改質を図りました(図1)。





 その結果、フッ素樹脂基板と銅箔との接着強度は、未処理基板の2.5倍の1kgf/cmになりました(図2)。これは、フッ素樹脂基板に導入した親水性基に銅イオンを結合させることにより、銅との親和性を高めた効果によるものと考えています。今回の方法のメリットは、銅などの導体表面に凹凸を付けることなく接着力を強化していることです。このため、伝送線路の電力損失を増加させることなく接着強度が増加し、低損失のアンテナシステムを開発することができるようになります。





 本技術は、アンテナの高性能化につながるばかりでなく、従来技術のように表面凹凸による伝送損失が発生しないため、増幅器などの回路を付加する必要がなく、2割程度のコストダウンが可能となります。
 この技術開発により低損失ミリ波アンテナが実現すれば、携帯電話、衛星通信、高度道路交通システムなどの高周波通信分野で幅広く応用され、需要が急増すると予想されます。また、非接触、非侵襲で効率の良い非破壊探査機5)や医療診断装置(図3)などにも適用範囲が広がり、工業、医療分野に大きく貢献できます。さらに、今後の研究開発により接着強度を倍加させることで、特に近年ニーズが高いミリ波車載レーダにも適用可能となり、安心、安全な社会の構築にも寄与できます。




 今後は、平成19年1月〜3月の実用化を目指し、九州大学産学連携センターの協力のもと、グラフト処理を行ったフッ素樹脂基板の環境耐性などの評価を進めながら、九州日立マクセル株式会社の保有する微細加工技術(エレクトロ・ファイン・フォーミング)を活用して低損失ミリ波アンテナの試作を行い、特性評価と性能向上を進めていく予定です。さらに、これと並行して、誘電率をコントロールできる基板や大面積化が可能な基板開発を行っていく計画です。

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