補足説明資料

1.概要及び経緯
 デイノコッカス・ラジオデュランス(以下、ラジオデュランス)(図1)は、様々な地球環境に生息する非病原性の細菌ですが、他の生物に比べて極めて放射線に強く、その強さは大腸菌の約100倍、ヒトの1000倍以上と、生物の中で最も放射線に強いという特徴があります。これまでに、ラジオデュランスは、放射線によって傷ついたDNAを直す能力が極めて高いということが分かっていましたが、そのメカニズムは解明されていませんでした。1999年にアメリカのゲノム研究所によって、ラジオデュランスのゲノムが既に解読されていますが、ゲノム情報から放射線に強い原因を明らかにすることは出来ませんでした。



 原子力機構では、高崎量子応用研究所に設置されているガンマ線照射施設やイオン照射研究施設(TIARA)の量子ビームを利用してラジオデュランスに放射線を照射し、どの遺伝子が放射線に強くなる原因であるかを調べました。その結果、遺伝子pprAであることを突き止め、2001年に特許出願しました。この遺伝子が作るタンパク質PprAは、他の生物のどのタンパク質とも似ていない新規のタンパク質でした。その後の研究で、タンパク質の性質を生化学的に解析した結果、PprAタンパク質は、放射線などによってDNA鎖が切れた部分を認識して結合することにより、DNA鎖切断の修復を高効率で促進することが分かりました(図2)。





2. 今回の実用化について
 DNA鎖切断の修復は、DNAクローニングなどに使われる基本的な遺伝子工学技術です。そこで、原子力機構では、今回発見した遺伝子が作るタンパク質から、新しいバイオ研究試薬が作れるのではないかと考えました。平成17年11月18日に、このタンパク質を利用した高効率のDNA修復試薬「TA-Blunt Ligation Kit」が、原子力機構の実施許諾を受けた株式会社ニッポンジーン(住所:富山県富山市問屋町一丁目8番7号 社長 米田祐康、 電話 076-451-6548)から発売になりましたが、今回の実用化は、これに先立ち、独立行政法人科学技術振興機構主催の新技術説明会で、原子力機構が新しいバイオ研究試薬のシーズ提案を行い、株式会社ニッポンジーンにサンプル提供及び技術指導をした結果、技術移転に結びついたものです。
 今後、このDNA修復試薬は、バイオ研究に幅広く用いられ、遺伝子診断や新薬などの開発に役立つことが期待されます。




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