禁止命令取消請求事件・機構「準備書面」(平成17年12月9日付け)の概要

独立行政法人 日本原子力研究開発機構

本準備書面は、以下の2点について、原子力機構の主張を述べたものである。
1. 原子力機構は届出をしてないゆえ訴えの利益がないとする被告鳥取県中部総合事務所長の平成17年11月8日付け準備書面に対する反論主張。
2. 本件禁止命令の手続的違法性及び実体的違法性に関するこれまでの主張の総括

第1 被告の本案前の答弁について
  平成16年11月の届出の法的効力
(1) 原告は、平成16年11月、麻畑堆積場敷地内の土地の形状変更について届出をしたが、湯梨浜町は不受理とし届出書を返付した。
(2) しかし、判例は、届出書の返付行為は単なる事実上の行為であり、受理・不受理は届出の効力発生に影響を及ぼさないとしているのであるから、「無届」であることを前提とする被告の主張は失当である。

  届出の有無と禁止命令との関係(法律上の利益の有無)
(1) 被告は仮に本件禁止命令が取り消されても、無届である以上、適法に土砂の搬入行為をすることができないので訴えの利益がないと主張する。
(2) しかし、本件禁止命令が取り消され公定力が排除された場合には、届出をし、麻畑に斜坑を設置し斜坑内にウラン残土を充填して措置することができるのであり、取消判決の効果(拘束力)により利益の侵害状態を解消させ法益を回復させることができるのであるから訴えの利益はある。

  取消判決の拘束力
(1) 被告は、仮に本件禁止命令が取り消されたとしても、詳細設計内容が不適法であれば当然禁止命令をなし得ると主張する。
(2) しかし、ウラン残土の搬入禁止を内容とする本件禁止命令の取消判決が確定した場合には、被告は、取消判決の拘束力により、再度搬入禁止命令をすることはできない。
(3) また、被告は、当初の届出内容と詳細設計内容とは全く別個独立したものであると主張するが、届出内容は基本設計を示したものであり、詳細設計内容は現地調査の結果等を踏まえて基本設計を詳細化した詳細設計であり、両者にある程度の差異が認められるのは当然である。

  詳細設計と本件禁止命令との関係
(1) 被告は、裁判所が適法な本件禁止処分を取り消すことは三権分立に反すると主張する。
(2) しかし、かかる主張は、行政庁が本件禁止命令をなした以上、適法であり、裁判所は本件禁止命令の取消判決をすることができないとの判決をすべきことを強要するものであり、それこそ三権分立に反し、我が国の司法の存立それ自体を脅かすものである。


第2 本件禁止命令の手続的・実体的違法性(これまでの主張の総括)
  主張・立証責任(証明責任)
判例上、本件禁止命令のような行政処分の取消請求訴訟においては、被告行政庁が処分の適法性及び裁量権の逸脱・濫用がないことにつき証明責任を負担するが、被告は、全く証明責任を果たしていない。

  鳥取県立自然公園条例13条2項に基づく禁止命令等における裁量
被告は、本件禁止命令をなすにつき広範な自由裁量があるかのごとく主張するが、本件条例(鳥取県立自然公園条例)は行政庁に対し広範な自由裁量を認めたものではない。

  本件禁止命令の手続的違法性
(1) 「措置命令等に関する処理基準」等に反する本件禁止命令の違法性
・本件禁止命令の決裁文書には、「鳥取県自然公園許認可事務処理要領」の「普通地域内行為届出審査表」や「措置命令等に関する処理基準」に照らし具体的にいかなる審査をしたのかを示す記載は全くなく、本件禁止命令は、所要の審査を行うことなくなされた違法なものである。
(2) 弁明の機会の付与を欠く本件禁止命令の違法性
・原子力機構に弁明の機会を付与せずされた本件禁止命令は違法である。

  本件禁止命令の実体的違法性
(1) 本件ウラン残土の「搬入」を禁止内容とする本件禁止命令の違法性
・本件条例は、搬入禁止(持ち込み禁止)条例ではない。
・審査基準である「鳥取県自然公園許認可事務処理要領」にも「搬入」禁止できる旨を定めた条項はない。
(2) 「風景」に不安感が含まれることを前提とする本件禁止命令の違法性
・本件条例や「鳥取県自然公園許認可事務処理要領には、「不安感」が「風景」に含まれる旨の条項や、「不安」の程度により「風景」を阻害し「風景を保護するために必要と認めるとき」に当たる旨の条項はない。
・川上区長は、「川上区が反対する理由は、工事への不安はあまりなく、むしろ、ニュース性のある本件ウラン残土をとにかく持ってこられては困るというのが本音である。」、「科学的に根拠があるわけではなくニュース性が問題である。」として、本件ウラン残土の搬入に反対するとしているにすぎない。
(3) 斜坑の設置は「処理基準」の審査項目に抵触しない
・斜坑は、「措置命令等に関する処理基準」が挙げる審査項目に何ら抵触するものではなく、本件禁止命令が、同基準の「普通地域内行為届出審査表」等に反してなされた違法なものであることは明らかである。
(4) 大規模工事による風景阻害の具体的可能性の欠如
・被告は、地形の改変や工事の「規模」を理由として、直ちに、風景の保護上大きな支障となると主張するものであり、かかる短絡的な判断が「措置命令等に関する処理基準」に反することは明らかである。
(5) 県立自然公園の運営の支障、損害の具体的可能性の欠如
・被告は、工事により鉢伏山山頂への通行及び鉢伏山山頂の展望駐車場等の利用に多大な支障を生じさせるとしているが、具体的な主張・立証はなく、本件禁止命令の適法性を基礎づけるものではない。
(6) 禁止命令発令に当たっての行政庁の独自の想定の可否
・被告は、本件禁止命令発令に当たり、独自に工事内容を想定しているが、本件条例には独自の想定をなすことを行政庁に許容する旨の規定はない。
(7) 他の法令、条例違反を理由とする禁止命令発令の可否
・被告は、「仮橋」について鳥取県砂防指定地等管理条例等を挙げて非難するが、かかる主張は、本件条例上、行政庁として許容される権限を逸脱する主張であり失当である。
以上

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