平成17年3月28日
殿塚理事長の欧州出張(IAEA本部訪問等)報告


1. 目的
 平成18年3月18日から3月25日までの欧州出張に際して、ウィーンのIAEA本部を訪問し、エルバラダイ事務局長はじめIAEAの首脳陣を表敬しJAEAの活動を紹介するとともに今後の協力について議論する。また、ロンドンで開催されるヨーロッパ原子力学会のトピカル会議(ENC-TopNux 2006)に参加し、最新の欧州における原子力界の状況を視察するとともに、本学会と並行して開催される展示会でJAEAの活動を紹介する。BFNL社のセラフィールド再処理工場を視察し、今後の研究協力について協議する。加えて、チェコ・プラハの核物理研究所及び原子力研究所を訪問し、チェコにおける原子力研究開発の現状を視察し今後の研究協力の可能性を探る。


2. 概要
2.1 IAEA表敬訪問
 1) エルバラダイIAEA事務局長表敬訪問
  IAEAエルバラダイ事務局長を表敬訪問  IAEAのエルバラダイ事務局長を表敬訪問した。IAEAからは、谷口安全・セキュリティ事務次長及びショウ事務局長特別補佐官が同席した。
 理事長より以下の発言があった。昨年12月のノーベル平和賞受賞に対しお祝いを申し上げるとともに、新法人設立に当たり昨年10月に開催した設立記念式典においてビデオレターを頂いたことに感謝する。JAEAは約4,400名の職員のうち700名が博士号を有している。年間予算は約20億ドル。主な研究開発は、高速炉・核燃料サイクル、廃棄物処理・処分、核融合研究、量子ビーム、原子力科学・基礎研究、安全研究等の分野である。新しい特徴として、核不拡散科学技術センターを設けて核不拡散に関する研究開発、政策的な提言等を実施する。我が国の原子力平和利用の特徴の一つに再処理方法がある。具体的には、プルトニウムを単体でなく、マイナーアクチニドと混合して処理する方法を開発している。今後も研究開発やIAEAとの人的協力を含めた協力を、全力を尽くして進めたい。事務局長に、5月に開催される第1回核不拡散科学技術国際フォーラムでの特別講演をお願いしていたところ、残念ながら不参加となったが、IAEAから代表が来て頂くことになり大変感謝している。次は、日本にて再びお会いできる機会があることを希望する。
 これに対し、エルバラダイ事務局長より以下の発言があった。理事長の訪問に感謝する。世界における原子力研究開発への強いニーズに対し、JAEAが原子力の広い分野で重要な活動をしていることは嬉しい。将来のエネルギー戦略として、原子力と太陽エネルギー開発へのサポートが重要。原子力では、安全、保障措置、廃棄物処理・処分の三つがPAにとっても重要課題。JAEAとはそれ以前のJAERI、JNCの時代から協力を進めており、専門性、人材の面での緊密な協力が重要であることが今や世界のコンセンサスとなっている。JAEAからの優秀な人材がIAEAで活躍していることは嬉しい。是非多くの職員、特に若い人に来てもらい、良い仕事をして頂くことを歓迎する。今後も協力を強化して行きたい。5月のフォーラムに参加できず申し訳ないが、ハイノネン事務次長が代理で出席する。次の機会には日本を訪問したいと考えている。
 これに対し理事長より、人的貢献について、若くて能力のある者を出す努力をしたい旨返答し、会談は和やかな雰囲気の中で終了した。

 2) 各事務次長との懇談
  IAEA事務次長と懇親  IAEAに6部門ある局のうち5つの局の最高責任者である事務次長(セット技術協力局事務次長、谷口安全・セキュリティ局事務次長、ウォーラー管理局事務次長、ブルカート科学・応用局事務次長、ハイノネン保障措置局事務次長の5名)と懇談した。
 理事長より、「新法人の概要を説明するとともに、日本で唯一最大の原子力研究機関としてIAEAとより広範な協力を行っていきたい。また、5月に東京で開催される第1回核不拡散科学技術国際フォーラムにIAEAから代表者が参加して頂けることに謝意を表する。JAEAに対し、IAEAからの要望、注文等を聞かせてもらいたい。」との発言があった。
 それに対して、事務次長側から以下の発言があった。このように事務次長が集るのは珍しいことであり、この会合を設けていただいた事に感謝する。IAEAでの日本人正規職員は現在約20人程度で少な過ぎる感があり、優秀な人材をIAEAに派遣し日本のプレゼンスを高めて欲しいとの要望があった。また、現在、IAEAでは女性の職員を増やし、女性が働きやすい環境を整備する努力をしている。女性の科学技術者にはインターン等の機会を通して国際的な舞台での職業経験をして欲しい。そして彼女達が再びIAEA等に戻ってきて仕事ができる環境整備を是非お願いしたいとの発言があった。ITERがカダラッシュに決まり、これから本格的に稼動する。日本は青森が選に漏れてしまって残念だが、サイト以外の殆ど全てを獲得し、重要な役割を果たしている。是非、JAEAの優秀な研究者がカダラッシュに来ていい仕事をされることを望む。



2.2 CTBTO訪問
CTBTOトト事務局長を表敬訪問  CTBT(Comprehensive Nuclear-Test-Ban Treaty:包括的核実験禁止条約)は、核兵器の実験的爆発を禁止する国際条約であり、条約自体は発効していないが、将来条約が発効した際に核実験を探知することを目的として、CTBT機関準備委員会事務局(CTBTO)がシステム整備等の準備を進めている。理事長はCTBTOオペレーションセンターを視察し、トト事務局長他と懇談した。この表敬訪問で、殿塚理事長は、世界中を監視するオペレーションセンターに対する感銘を述べ、今後ともCTBT検証体制の確立支援を行いたい旨、話した。トト事務局長はJAEAの支援に感謝を示し、JAEAから今後とも優秀な人材を派遣してくれる様要請があった。


2.3 ENC-TopNux 2006国際会議
原子力機構展示ブースで理事長とスー・イオン英国原子力学会長  「新たな原子炉システムに関するENCトピカル会議」が英国ロンドンのクイーンエリザベス2世会議場で3月21日から23日にわたり開催され、各国の政府や産業界の指導的立場の代表者を中心に約20カ国から約200名が参加した。日本からは約15名が出席、日本原電及び原子力機構から2件の講演が行われた。理事長も本会議に招待され、会議の主催者や各国の代表者との意見交換の機会を得た。
 TopNux 2006会議と並行し原子力関係機関28社の展示が行われた。日本からはJAEAと三菱重工からの展示があり、JAEAは、もんじゅ、核融合、J-PARC、HTTR・水素製造、安全性・核不拡散の6分野を中心としたブース展示を行った。また、液晶画面によるDVD再生とパンフレット配布を行った。パンフレット約150部を配布し、国際部、広報部、現地駐在員が支援スタッフとして対応した。
 全体的な印象として、「J・A・E・A」という法人名称は依然、浸透が浅いように感じられたが、一方では理事長自らが直接会合に出席し、諸外国の要人と現地にて面会する機会を得られたことで、存在を大きくアピールすることが出来た。


2.4 BNFL社の再処理施設(THORP)・技術センター(BTC)の見学
 施設見学に先立ち、BNFL執行役員のDr. Sue Ion、及びBNFLの子会社であるNexia Solutions技術センターのTom Rice部長と会見し、イギリスの原子力界の現状と今後の協力について意見交換を行なった。理事長より、セメント固化技術分野での協定を結び、研修者を送ることへの要望が述べられた。
 BNFLのセラフィールド施設訪問では、停止中の再処理施設(THORP)の他、再処理関連技術開発のための技術センター(BTC)が特に興味深かった。当施設は、新しく明るい好イメージの実験施設であり、評判も良好とのこと。セメント固化に関する協定をきっかけとして、BNFLとは今後協力を発展させつつ、競争者としてもJAEAが良い成果を挙げることが肝要であると感じた。


2.5 プラハ核物理研究所及び原子力研究所訪問
チェコ、プラハの核物理研究所(NPI)、原子力研究所(NRI)訪問  プラハの北北西約40kmのヴルタヴァ川沿いのRezにある核物理研究所(NPI)及び原子力研究所(NRI)を訪問した。NPIからは、Dobes所長ら4名、NRIからは、Pazdera所長ら5名の出席があった。殿塚理事長が、日本で唯一の原子力総合研究開発機関であるJAEAの活動を理解してもらい、核融合等で協力の継続を希望する旨を挨拶に加えた。
 NPIではDobes所長自らが概要を説明された。設立は1955年。職員は約200名、科学者は約80名。予算は約450万ユーロのうち、国の資金が61%、商業活動が21%、公募が18%。支出は56%が人件費、44%が材料費等(2003年)である。ミッションは、核物理基礎研究と他分野への核物理手法の応用とのこと。
 次に、NRIのPazdera所長より事業概要が紹介された。設立は1955年であり、1992年に民営化し、現在の研究所は、52%がチェコ電力、28%がSE社、17%がシコダ自動車などで株を所有している。職員は約900名。予算は約1億ユーロ。チェコ電力からの資金が42%、国の資金が21%、外国から9%、他のチェコの会社から26%等(2004年)。研究所のミッションは、研究開発、設計とエンジニアリングサービス、技術エンジニアリング、特殊製品や部品の製造、エネルギー、産業界、及び医薬品分野における専門的活動である。竹内国際部長がJAEAの概要を説明したのち、理事長がJAEAとNPI・NRIの活動との関連性を強調し、特に、2008年に稼働開始するJ-PARCは、来日の機会に訪問いただきたい希望を述べた。
 この後、NPI及びNRIがそれぞれ所有するサイクロトロン加速器U-120M及び研究炉LVR-15の施設を見学した。


3. まとめ
 ウィーンのIAEA訪問では、関係要人のほぼ全員と会談し、特にノーベル平和賞受賞者でもあるエルバラダイ事務局長との会談実現は特筆すべきである。また、国益や将来のJAEAの発展のため、長期的な投資として国際機関へ有能な職員を積極的に派遣するような、従来の認識を改めた戦略的な対応を検討することが必要であると痛感した。
 ENC-TopNux 2006国際トピカル会議では、JAEAから高速炉サイクルを中心とした研究開発を積極的にアピールでき、昨年12月のENC 2005に引き続きブース展示や諸外国要人との面会等による成果は大きい。また、セラフィールドの施設訪問では、BNFLとは今後も協力を発展させつつ、競争者としてもJAEAが良い成果を挙げることが肝要と感じた。
 最後に、プラハの核物理研究所及び原子力研究所両研究所の訪問では、施設の経年や規模にかかわらず、工夫を重ねることで、成果を挙げており、その積極的な企業努力はJAEAも見習うべきものがあった。
以上

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